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○○に転生したから××しました《俺様暴君編》

大したことない(?)ですが、

ボーイズラブ注意報&腐女子注意報(^_^;)

「貴也様、どうしたんですか?」

 気遣わしげな守役の凍矢の声も、この時の俺には聞こえなかった。ただ信じたくない現実から逃げ出したかった。


(マジかよ…)

 保村貴也、十二歳は、婚約者となった少女と見つめあったまま途方にくれた。

 それというのも、少女の顔を見て、貴也は確信してしまったからだ。


 貴也には、物心ついた頃から見続ける不思議な夢があった。壮年の男が、少女にせがまれテレビゲームをしている夢。それがただの夢じゃないかもしれないと思ったのは、鏡に映る自分の顔が、夢の中の少年に似てきていると気付いた時だった。それも何の因果か、ゲームに出てくる少年に。

 気のせいだと思いたかったが、自分の名前も家庭環境もゲームに出てきた少年と酷似していた。

 そして、今日婚約者と顔合わせをして、ここが前世で娘が嵌まっていたゲームに類似した世界だという事を、確信してしまったのだ。


「ゲームの世界に転生とか、勘弁してくれ…」

 先の事を考えると頭が痛くなる。

「痛っ」

 マジで痛い。額に手をやると、脂汗が滲んでいた。

「貴也様!?」

 突然の目眩に膝から力が抜ける。その先の記憶はない。



 ゲームの中の保村貴也は、何様俺様外道様だった。

 婚約者がいる身でありながら、言い寄ってくる女を片っ端から喰い散らかしていた。

 顔が良く家柄が良いもんだから止める者もない。ヒロインに落とされるまでの貴也は、弱者を踏みにじり、他者を思いやることのできない、どうしようもないクズだった。


「あのクズの俺様男が、俺って?…悪夢だ」

 目を開けると見慣れない部屋だった。

「気がつかれましたか。…良かった」

「医師を呼んできます」

 柔らかい少女の声と、聞き慣れた凍矢の声。扉の閉まる音。


「大丈夫ですか?」

 声の主は、先程顔合わせしたばかりの婚約者。

「君は、…水崎麗奈さん?」

「はい」

「どうして、君がここに?」

 婚約者と言っても、ほぼ初対面の間柄だ。

 疑問に思って問いかける。

 水崎が、真剣な顔で保村を見ると言った。

「お聞きしたい事があって…」

「俺に?」

「はい。…あの、保村様は転生者ですか?」


『………………』


 先程の質問で分かったと思うが、水崎麗奈は、俺と同じ転生者だった。

「驚きました。他に記憶持ちがいるなんて考えもしなかった」

「私もです。でも、保村様が王道学園の初等部に通っていると聞いて、それに随分ゲームの保村様と雰囲気が違うので、もしかしてと思っていました」

「…ゲーム通りなんて、真っ平だったからね」

 そう言うと、水崎が嬉しそうに笑って頷く。

「貴方は、『保村貴也』と違いますね」

 真っ当だわと、笑う水崎に俺も頷く。

「君も、『水崎麗奈』と違うね」

 本来の水崎麗奈は、美と金に執着し、選民思想に凝り固まった女王様。婚約者の保村貴也に執着しながら、目にとまった才能溢れ顔面偏差値の高い男達を、実家の権力で追い詰め、囲い込む。正に保村貴也と同類の悪女だった。

 でも目の前の彼女は違う。彼女の瞳には光がある。知性と優しさがある。

 だから、君も真っ当だと、俺は笑って言った。


「君が婚約者で良かった」

「私も、貴方は婚約者で良かった」

 こうして俺達は意気投合し、円満な婚約関係を結んだ。


 医師を連れてきた凍矢が、談笑する俺達を見ていた。


 俺達の通う王道学園が、魔界だと知ったのは、中等部に上がっての事だった。

 初等部の時は気付かなかった。

 男が男に惚れ告白する。初等部から全寮制とはいえ、すぐソコに共学校も女子校もあるというのに、何故男に走るのか理解できない。だが、そんな事をいう真っ当なヤツはごく少数。

 そんな少数派に属する俺は、何故かモテた。

 初等部から生徒会長をしているからかもしれないが、告白や恋文が届かない日はないし、中等部になってからは高等部のガタイの良い男子に人気の無い場所に呼び出されたり、空き教室に連れ込まれかけるのも連日だ。勿論、全て丁重に断っている。


 だから、水崎麗奈という婚約者の存在は有難かった。告白されても断りやすいからな。

 ただ、力ずくにってヤツが、高等部に上がって増えた。

 お陰で、凍矢が過保護だ。


 今だって…。

「貴也様、大丈夫ですか?」

 俺を押し倒そうとした男(俺が伸した)を踏みつけている。

「貴也様に手を出すなんて、死にたいのですか?」

「凍矢。俺は大丈夫だから、ソイツを保健室へ…」

「何を言っているんです。こんなヤツ、

手当てする必要ありません。さ、行きましょう」

「お、おい!凍矢!?」

 止めに男を蹴飛ばすと、俺の肩を支えて歩き出した。


 すこし前も…。

「貴也様!?」

 教室に呼び出され、告白されていると凍矢が飛び込んで来た。

「貴也様に危害を加えるなら、容赦しませんよ?」

 善良な?男子生徒を笑顔で脅し。


 またある時は…。

「大丈夫ですか、貴也様」

 何故か抱き上げられ、保健室に運ばれた。

 いや、確かに幼少期は転生の事で悩みまくって倒れた事もあったが、俺は健康体だぞ。

 考え事してただけで、気分が悪いとかじゃないからな?

「貴也様の大丈夫は、当てになりませんから」

 それは、俺の顔をのぞきこみながら言わないといけない台詞か?

 何故、そんなに笑顔なんだ。

 距離が近すぎないか?

 何故、額をくっ付ける!?



 凍矢はゲームに登場しない。いや、ゲームには、名前は出ていないがお目付け役がいたから、『彼』が凍矢だったのかもしれない。

 ただ、『彼』は素行の悪い保村貴也に、父親が付けた監視役で、保村貴也とは犬猿の仲だった。勿論、親子関係も冷めきっていた。

 凍矢は俺の幼馴染みであり、幼い頃から何かと狙われる俺を心配した父が付けてくれた護衛だ。

 親子関係もゲームと違い良好なので、『彼』と凍矢が同一存在かは分からない。



 最近、凍矢の様子がオカシイ。


 現在俺は、凍矢と壁に挟まれ身動きがとれない状況だ。

「貴也様。何を考えているんですか?」

 お前の事だよ。

「何か悩み事でも?」

 お前の奇行について悩んでいる。

「私の、ですか?」

 何故、嬉しげなんだ。

 腰を抱くな、引き寄せるな。

 最近スキンシップが激しくないか?

「だめです。見つかりますよ?」

 そうだった。俺は今、ストーカー(親衛隊)から逃げている最中だった。

 慕ってくれるのは嬉しいが、何故血走った目で追ってくるんだ。

 男を追い回すなんて不毛だろ?


 確かにヤツらには見つかりたくない。

 だが、だからといって、ここまで密着する必要はないと思うが…。

「貴也様は、私がお守りします」

 微笑む凍矢に、何故か背筋がゾクゾクする。

 凍矢は、ただ職務に忠実なだけだよな?

 微笑んで何も答えない凍矢。

 彼の笑顔が、何故コワイと感じるんだろう…。



『乙女ゲームの攻略対象の俺様に転生したので、男子校に行きました。結果、カリスマ会長にジョブチェンジしました。お陰でゲームのフラグは折れたけど、幼馴染みの様子が変です』

《予告編?》


 バタバタバタッ。

 珍しく慌てた様子で凍矢が走っている。

「貴也様!お側を離れて申し訳ありません」

「…問題ない。そっちは片付いたのか?」

「はい。お待たせして、申し訳ありません」

 側に歩み寄る。

 貴也と対峙する男達が、凍矢の登場に怯む。

 貴也の足下には、すでに数人の男子生徒が倒れていた。

「お怪我はありませんか?」

「問題ない」

 気のない返事を返す貴也の腕を引く。

「頬の傷から血が出ていますよ?」

(ペロッ)

「な!?」

 絶句する貴也を残し、前に出る。

「貴也様に傷をつけるなんて、命が要らないようですね」

 ゴゴゴゴゴ…。

 凄まじい怒気を背負って凍矢が微笑んだ。






(ドキドキ。ドキドキ…)

 頬を赤らめ、隣の男子校を覗き見中の水崎麗奈。

 婚約者を見守るその手には、双眼鏡とペンとノートがあったとか。

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