不本意ながら乙女ゲームのライバルキャラに転生しました
文中に下品な言葉が乱発されてますので、ご注意下さい。
私は、由緒正しきお嬢様。
そんな私には学園で超絶人気のカリスマ婚約者がいる。ただの暴君だけどね。
口が悪いって?
ごめんなさい。こっちが素なの。いつもは分厚い猫の着ぐるみを被っているの。今日は暑いから脱いじゃった。
でね、あんなヤツ好きでも何でもないが、訳あって婚約解消はできないの。それなのに、ヤツの中では、私はヤツに惚れ込んで後をつけ回すストーカー女らしい。しつこい女扱いされてムカつく。アンタの後なんて追ってないっての!
ああ、でもヤバい。このまま行くと学園追放、
没落ルートだ。
え?何だそれはって?
私を待ち受ける未来です(泣)
実はココ、乙女ゲームの世界なんです。
それを思い出したのは十二歳の時、婚約者と顔合わせをした夜だった。
婚約者の顔に既視感を覚えた私は、ヤツのお屋敷から帰る道中、ずっと考え込んでいた。
そして、家についた途端前世の記憶が押し寄せてきた。突然の記憶の奔流に耐えられず、倒れた私は、一週間寝込んだ。心配した両親は、婚約が負担になったのかと、婚約を取り止めにしたかったみたいだけど、前世の記憶でヤツの本性を知った私も勿論解消したかったが、あちらの両親が乗り気で解消できず、今に至る。
その乙女ゲームは、題名は忘れたけど、王道満載のよくあるヤツだ。季節外れの転校生が、イケメン生徒会メンバーと出会い、恋に落ちる。それはイイ。
問題は私の役回りがライバルだった事。
嘘だと叫んだわ。元々私はヤツの事なんか好きじゃなかったが、記憶が戻った今、むしろ嫌悪対象だ。私は知ってしまったのだ。今後できるヤツの親衛隊が、みんなヤツのお手つきだという事を。
でも、季節外れの転校生のヒロインはゲーム通りにやって来た。そして、学園中のイケメンは、ヒロインを取り囲みつつある。
私はヒロインに近づくの避けてるけど、イケメン侍らしてるって、親衛隊(特に生徒会長の)が目の敵にしてるみたい。中庭で水かけられたトコに遭遇した事がある。
ああ、そんなこんなの内に、ヤツに呼び出された。ヤツの後には生徒会メンバーとその取り巻き、親衛隊に野次馬で、中庭は暇人で溢れかえっている。
ヒロインに嫌がらせをしている犯人を、私だと決めつけて、公衆の面前で絞める気だ。
あの厭らしい顔、私を貶めるつもりだ。
「いい気になるなよ。確かにお前は俺の婚約者だが、俺は認めていないし、お前の事など何とも思ってない。」
いい気になってないし、私だって認めてないわよ。アンタの事なんて私だって何とも思ってないわよ。
「婚約は解消する。俺が好きなのはアイツだけだし、アイツに手を出したお前を許す分けにいかない」
何勝手なことをほざいているのか。貴様は婚約者がいるのに手当たり次第だっただろうが。
「 会長!犯人を捕まえたって本当ですか!?」
ヒロインが走ってきた。
「ああ。お前に嫌がらせをしていたのは、この女だ。
この女は俺の婚約者だったんだが、俺がお前に惚れたから嫉妬にかられてやったらしい」
婚約は解消したから心配するなと、やに下がった顔で言っている。
ああ、気持ちわるい。
嫌悪感で身震いする私をヒロインが見た。
「この人が?」
「危ないから近寄るな。お前に手を出した報復は俺がキッチリつけてやる」
憎々しげに、私睨む。
「会長…」
「何だ?」
「婚約者さんが、やった証拠はあるんですか?」
「は?」
ヒロインの言葉が思いがけないものだったのだろう。ヤツが間抜け面をさらした。
私も驚いた。逆ハーヒロインなら、嬉々として同意すると思ってた。
ヒロインが、ヤツに問いを重ねる。
「だから、婚約者さんが、
やったって証拠があるんですか?」
「何を言っている?この女がやったに決まっている!」
「証拠あるんですか?」
「それはッ。だが、この女がやったに決まっているんだ」
「証拠ないんですね?」
「………」
「会長は証拠も無いのに、
この人を犯人呼ばわりしたんですか?」
ヒロインが、呆れたとため息をついた。
「この女は、前科がある」
「前科ですか?」
「俺の婚約者である事を盾に、俺に女を近づけないように謀った」
「本当ですか?」
ヒロインが、私に問いかけてきた。
「信じてもらえるかわからないけど、半分本当で、半分嘘よ」
「それは、どういう事ですか?」
私は顎でヤツを示す。
「この男、昔から女にだらしがなくて、婚約者がいてもお構い無しで女を侍らしていたの」
「俺が誘ったわけじゃない。勝手に女が寄ってくるんだから仕方ないだろ?」
ヤツが不敵な笑みを浮かべる、嫌みったらしい。
「それで、コイツの両親に婚約を解消したいって言いに行ったの」
「俺を独占出来ないのが気にくわなかったんだろ?」
ふふん、と鼻で笑う。
「私は、理性の欠片もない、欲望垂れ流しなだらしない男なんて嫌だから婚約解消したかったんだけど、コイツの両親が、女遊び止めさせるから解消しないでくれって、泣きついて来てね。
それをコイツは曲解して、私がコイツの女達に嫉妬したなんて、ある事ない事言い出したのよ」
「ふん、嫉妬に狂った女の戯れ言など、聞く価値もない」
「つまり、婚約者さんは、会長を好きじゃない?」
「な!?」
「好きじゃないどころか、大嫌いよ。
目が腐りそうだから視界に入れたくないし、耳が汚れそうだから声も聞きたくないわよ。
あ、婚約者なんて呼ばないでくれる?怖気が走るわ」
「何だと!?黙って聞いていればッ」
「会長、私に嫌がらせをしていたのは、彼女じゃありません」
「何!?」
「私に嫌がらせをしたのは、会長の親衛隊です」
ヒロインの言葉に、親衛隊長がビクリ震える。
「本当なのか?親衛隊長答えろ!」
「あ…、私は」
ヤツの形相に、親衛隊長が青ざめる。
「でも、悪いのは親衛隊長さんではありません」
「何?」
「悪いのは会長です。私を好きだといいながら、
親衛隊長さんと男女の関係を続けていたんですから」
「!」
恋人の心変りを愁いた彼女の当然の行動でしょう?
ふふふ。と、ヒロインが笑う。
「気付かないと思ってましたか?気付かない筈がないでしょう?」
「俺が、好きなのはッ」
「好きだと言えば、なんでも許される訳ではありません。
私だって、下半身ユルユルの無節操男なんて、まっぴらですの」
ヒロインは、にっこり笑って止めをさした。
生徒会長が振られたという話題は瞬く間に学園中に広がり、醜聞を嫌ったヤツは学園を出ていった。
勿論、私達の婚約は解消。
風の噂では、親衛隊長が妊娠していて、そのまま押し掛け女房の座におさまったそうだ。
避妊もしていなかったなんて、本当に最低の男。
そして、私はというと。
「貴女も転生者だったのね」
「ふふっ。不思議なご縁ですね」
上品な笑みを浮かべるヒロインと、友好を築いていた。
「私が転生に気付いたのは、この学園の名前を聞いた時でした。記憶で私がヒロインである事を知り、最初はゲームに添った行動をしていたんです。でも、すぐにヒロインと私は違うという事に気付いたの」
「ヒロインと違う、ですか?」
「ええ。だって攻略対象者なんて、全く好みじゃなかったんですもの。…ふふふ」
「それは…。うふふ」
込み上げてくる笑に身を任せる。
「くすくす。私の好みは…」
「まあ、奇遇ね。私はね…」
少女達の軽やかな笑い声が響く。
そこに、駆けてくる足音と、少女達を呼ぶ声。
少女達は、少年達に手をとられ、明るい陽射しの中を駆けて行った。
乙女ゲームの攻略対象者って、冷静に見ると最低な男が揃ってますよね。いくら顔が良くてもリアルには付き合いたくないな、とか思ってしまう。ゲームでは改心してるけと、それって本当に信用できるの?浮気男の手管じゃないの?
いつも真実の愛に目覚めたとか言って、最低男が幸せになるので、ヒロイン達にバッサリ切って捨ててもらいました。
そして、ヒロイン達は、攻略対象者を総無視して、優良物件を自力でゲットするのでした。