逆ハーヒロインのその後《乙女ゲームからの解放》
『乙女ゲームからの解放』の逆ハーヒロインの
その後の話。コメディです。
乙女ゲームの世界が、実はとても恐ろしい世界だという事を、貴女は知ってますか?
これは、逆ハーエンドを追い求め、
全てを失った少女の愛と涙の笑い話である。
姫野愛華は、百花繚乱学園を追放された後、季節外れの転校生として、とある学園に入り込み逆ハーエンドを目指して日々活動していた。
活動していた。
…過去形である。
「学園追放処分、これで何校目だっけ?」
「うっ」
「今回の攻略対象者達も、ライバルと寄りを戻したんだって?」
「ううっ」
「ここに来たって事は、また追っ手が付けられたの?」
「~~~っ、
私は、ただ酒池肉林したいだけなのに、どうして、いつもいつもこうなるのよ~~~!?」
「諦める?」
「イヤッ!
せっかくヒロインに生まれたのに、諦めてどうするのよ!?
紅葉ちゃんも、乙女ゲームやったなら分かるでしょ!?
逆ハーエンドは乙女の夢よ!!
私はイケメンに囲まれて、愛欲に満ちた官能生活を送りたいの!18禁乙女ゲームのヒロインみたいにドロドロに愛されたいの!」
「でも、ここって全年齢対象の乙女ゲームの世界なんでしょ?」
「うっ」
「お姉さん、このまま行くと、悪女指定で行ける学校なくなるよ?」
「うう…」
突っ伏した愛華を、目の前の子供は頬杖をついたまま、呆れた目をして見下ろす。
子供の名は、鷹大路紅葉。まだまだピチピチの小学生。
紅葉は、最初の学園追放処分の時に、某所で雄叫びを上げていたの愛華を見かけ、匿ってくれた恩人だ。
ちなみに、その時の紅葉のセリフは、
『逆ハーって何?』である。
その言葉に驚愕した愛華が、紅葉に逆ハーと乙女ゲームについて語り始めたのが二人の出会いだ。
その後、乙女ゲームの話題に飢えていた愛華は、お気に入りの乙女ゲームの布教を始め、ゲームのやり取りを通し友人となった。
紅葉には、この世界が乙女ゲームの世界である事も、自分がヒロインである事も話ている。
「………」
「な、何よ」
沈黙に耐えられなくなった愛華が睨んできた。
「…今度は引いてみたら?」
「え?」
「いつもお姉さん、お兄さん達追いかけて捕まえようとしてるでしょ?」
「うん」
「だから、お姉さんが逃げて、お兄さん達に追わせたらどうかな?」
「………」
「お姉さんに惹かれて、お兄さん達が追いかけるのなら、
悪女指定も学園追放もないんじゃないかな?」
「………」
「お姉さん?」
ガシッと、紅葉の肩を掴む。
ふふふふふふふ。
うつ向いた愛華から、不気味な笑い声が聞こえる。
「ナイスよ、流石、天才小学生の紅葉ちゃん♪
盲点だったわ!
最初から追わせればイイのよね!」
勢いつけて立ち上がると、何かを机にのせた。
「早速、転校手続きしてくるわ。
今度、それの感想聞かせてね♪」
笑顔で執務室を出て行った。
「ふふふ。愛華さんは、相変わらず可愛いですね」
パタパタと遠ざかる足音を聞きながら、
紅葉が微笑む。
「…吹雪」
「はい。すでに手配済みです」
紅葉の背後に、細身の男が立っていた。
完全に気配を消した男の存在に、愛華は気付かなかった。愛華は知らないが、愛華には紅葉によって数人のガードが付けられている。
ガードは、悪女と名高い愛華に、悪い男達の手が及ばないように守り、また愛華の行動の全てを紅葉に報告する。
紅葉は、愛華の置いていった乙女ゲームを手に取り、口づけた。
「愛華さん。貴女の願いは、全て私が叶えますから、
もう少し、待ってて下さいね。
…もちろん」
逆ハー以外ですが。
呟いた紅葉が艶然と微笑む。
ここは『恋花~君は僕のために花開く~』という乙女ゲームが元になった世界。
恋花は、一途な愛がテーマの乙女ゲームだった。
だから、誠実である事が最も重要だ。
故に、逆ハーになりたいという愛華の望みは、決して叶わない。
一途じゃないヒロインの運命は紙一重。
行き着く先は、天国ですか?地獄ですか?
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《おまけ》
数年後、某所にて、
「紅葉、あ、やめて!…や、まっ、て」
「フフフ。私は、十分待ったと思いますよ?」
「あんっ!や、も、む…。あんっ、あ、あ…」
立派に育った紅葉に、アンアン言わされる愛華の姿があった。
口は災いの元。因果応報。
『紅葉が男だなんて聞いてない!
ていうか、過去の私、
何で酒池肉林なんて望んだりしたのっ、きゃんっ!?』
「フ、考え事ですか?
まだまだ、余裕があるようですね」
ニコリと微笑む紅葉に、
青褪める愛華。
「や、ちがっ、ん、あんっ、や、ああああっ!」
「ドロドロになるまで、愛し合いましょうね♪」
「や、あ、…やんっ、あああああっ」
「可愛い愛華。愛しています。
望み通り、たくさん、たくさん、愛してあげますね」
『私のバカ~~~!
酒池肉林なんて、乙女ゲームなんて、
大嫌いだ~~~!』
年下の細マッチョな旦那をもらった愛華は、過去の自分を罵倒するのだった。
~監禁エンド達成~
鷹大路紅葉
日本を牛耳る企業の影の支配者
天才小学生
ヒロインの前世
恋に恋い焦がれる乙女ゲーオタク
二十代後半で事故死
★エンディング分岐
監禁エンド~籠の鳥~
一生紅葉に囲われ、溺愛される。
バッドエンドの中では、唯一明るく救いがあるエンディング。
~その他のバッドエンド~
激怒した攻略対象者の親族から追われ、一生逃げ惑う逃亡エンド。
攻略対象者の親族に捕まると、救いのない鬱エンドに分岐します。
鬱エンドは、誰の親族に捕まるかで、更に分岐します。(攻略対象者の数だけ分岐があるので、百花繚乱学園追放後も逆ハーを目指して活動していた愛華は、星の数ほどの追手がいます。)
鬱エンドのほとんどが死亡エンド。他のエンドも死んだ方がましな廃人エンド。
また、紅葉と出会った時、愛華が初キス済みの場合、人形エンドに分岐します。
人形エンドは、親族に捕まり制裁後人格崩壊した愛華を、紅葉が生き人形として所持、愛玩します。
『恋花』で、キスシーンがあるのが個別ルートのみだったので、九死に一生を得た愛華でした。
良かったね。