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魔女って結構不人気職なんですよね


「畜生!」


 とある居酒屋で女性が荒れていた。

 机にグラスをバンッと叩き付け、目じりに涙を浮かべている。頬は赤く紅潮して、顔が整っていることも相まって男性客は話しかけたそうだが何分酔っているようで近寄りがたい。

 この店で一番強い酒をグビグビと浴びるように飲んでいく。


「お前、そんくらいにしとけよ?」


 あまりの勢いに店主がストップをかける。

 もはや馴染みとなっている女性は今日は一段と荒れていたのだ。


「聞いてよおじさーん」

「なんだよ」

「わたし、魔法使いなんだけどねぇ?自営業だから魔女にカテゴリィされちゃうわけだよ」

「へー」


 店主はもはやついていけなかった。


「国のお抱えが魔術師、魔道具ばっか作って大儲けするのが魔導士なんだけどね?そいつら私のことなんて言ってると思う?負け組だよ!?お前らの何十倍生きとると思っとるんじゃい!!」


 どう見ても女性は20代くらいにしか見えない。


「この前はせかっくだから知り合いの娘さんに誕生日プレゼントあげようと行ったのに、なんか歓迎されないし。しかも死の呪いだ!みたいに言われて!なんだよ私、悪役かよ!」


 まぁ、呼ばれてなかったのに勝手にいたのは悪いと思ったけどさ!と小さく続けた言葉に店主は嫌われてるなぁと同情した。嫌われている彼女にも、嫌いな奴に来られたその人たちにも。


「この前なんて、せっかくいいことしようと息巻いて泣いてる女の子に舞踏会セットあげたのに王子と結婚した瞬間性格変わってさ!『あんた、誰』っていうんだよ!?」


 どこかで聞いたことのあるような話だ。灰かぶりなんたらとかいう題名の。


「挙句の果てに義娘には美しさをねたんだ私に殺されるみたいなこと言いふらされてさ!なんだよ、自意識過剰かよ!どうせ私は独身ですよ!一人寂しくホットココア飲んで寝てますよ!」


 えらく可愛らしいな、とは言わないでおいた。


「なんで!?私結構強い魔女だよ!?なんで幸せじゃないの!?なんで小人とか、王子とかに殺されそうになるの!?しかも、この世界では火あぶりとか、いったいどういう教育受けてんの!?」


 宗教の問題です。


「ちくしょう!!」


 またそう叫ぶと机に突っ伏した。

 寝息は聞こえないということはまだ寝ていないのだろう。鼻を啜る音が聞こえることから泣いているのかもしれない。

 この時期就職難で面接官の悪口を言う輩はいるが、まさか自分が魔法使いなんて夢見てる大人に会うとは思ってもみなかった。


 がばりと女性が顔を上げる。

 痛々しく目じりが赤くはれていたが、その瞳には強い意志が宿っているように感じた。


「それでもやっぱり人間大好き」


 優しく微笑む。

 周りにいた男性客はもちろん、女性客まで見入ってしまった。


 立ち上がり、会計を済ませるべく財布を取り出す。


「おじさんありがとう。これからはあんまり来れないだろうけど、私が来るまでにつぶれたりしないでね?」

「物騒なこと言うな」

「ははは、うん。聞いてくれてありがとね?楽になった。もうちょっと頑張ってみるわ」


 カランと鈴が鳴り客が出ていったことを告げる。



 店主が彼女に会うのはそれから30年後のこと。

 店仕舞いの日に、あのころと変わらない見目で、彼女はその店の鈴を鳴らした。


『やっほう、おじさん。ちょっと愚痴聞いてくれる?』



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