魔術師の想い
危うく1ヶ月越しになるところでした。
Side イ・コージ
やり直し、それは研究者の胃を破壊する恐怖の5文字。
私のアイデアと努力を詰め込んだ対レクレール用結界魔石がやり直しをくらいました。
「コージ、結界に色を着けろ。それと弱い結界も作れ」
普通はやり直しが掛かる時はもう少し研究者を労る言葉があるんですけど、今回の使者はエリーゼ先輩。
労りを期待する方が間違っています。
「分かりました。色指定はありますか?」
「とりあえず硬いイメージの色にしてくれ。それとガドインから伝言だ¨異端者審問隊と殺りあうんなら傭兵を派遣してやる¨。俺はガドインの側にいなきゃいけないからカペー辺りを派遣してやる」
魔術師が魔術を唱えるには時間を要しますし、どうしても隙が出来るので前衛は必須なんです。
「分かりました、よろしくお願いします」
アレキスの相手は誰にも譲る気はありません。
「腹黒小僧はきちんとプロボーズをしたそうだぜ。コージはどうすんだ?」
どうするってプロボーズの事なんでしょうね。
「レクレールとの戦いが終わったら考えますよ、無事に生き残れたら話ですけどね。リアはまだ若く美しいですから、私よりも良い男が現れるでしょう」
私よりも悪い男なんて中々いませんが。
「この馬鹿野郎、歯を食いしばれ!!お前が死んだらピンクもじゃやキャロルがどうなるから分かってんのか。良い男だ!?女を馬鹿にするのも大概にしろ!!女は命懸けで恋をするんだよ、それを男のくだらね物差しで謀るんじゃねえよ!!」
先輩の拳が私にジャストミート!!
あまりの破壊力にレクレールと戦う前に命が散るかと思いました。
「しかし異端者審問隊の相手は命懸けですし」
「しかしも案山子もねえ!!戦う前から諦めてる奴が勝てる訳ねえだろうが。意地でも生き残る気持ちを持て」
そう言ってエリーゼ先輩は私を片腕で持ちて投げ飛ばしました。
「良いか、明日まできちんと改良しとけ。分かったな!!」
そう言って扉を荒々しく閉めるとエリーゼ先輩は部屋を出て行きました。
なんか情けなくて涙が溢れてきました。
悔しいです…だから本気で改良します、生き残ってから後悔しない為に。
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何とか改良の目処をたてて帰宅すると1人の男性が尋ねて来ました。
黒くボサボサの長い髪に分厚い眼鏡、私の親友ビルさん事、古代竜ビルクーロです。
「コージ君、胃薬と湿布をもらえないか?」
ビルは筋肉痛なのか動きがフラフラになっていました。
「湿布ですか?レインミントを使った湿布ならありますけど」
竜が湿布を使うなんて、何があったんでしょうか?
「ありがたい。本当なら1杯やりたいんだけど、これから踊りの練習があるんでね…僕、ダンスなんかした事ないのに2ヶ月でブレイクダンスを完璧にしろだなんて言うんだよ」
古代竜がダンスをするなんて見る人が見たら大混乱になりますよ。
「それなら栄養ドリンクもつけておきますね」
「ありがたい。そうだ、コージ君にこれをあげよう。10竜全員の鱗だ、ダンスをした時に剥がれた物を集めたんだ」
ビルさんがくれたのは黒、赤、青等の様々な色の鱗でした。
古代竜全員分の鱗なんて国宝にもありませんよ。
「しかし、代金が」
「胃薬、湿布と栄養ドリンクを竜数分貰えれば良いよ。コージ君の胃薬は古代竜の間でも好評なんだ」
…古代竜全員が胃薬を飲むなんて、何があったんでしょうか。
しかし…古代竜の鱗ですか…。
何を作りましょう!!
杖でも良いですし魔石にも代用が出来ます。
いや、代用じゃなく規格外な威力になる筈。
(制御をきちんとはしないと大惨事になりかねません。それにバングルの素材も考えなくては…何しろ、燃えてきましたー!!)
「コージ、ご飯になりますよー」
「リア、私は研究をしますから部屋にお願い出来ますか」
「はいはい、冷めないうちに来てくださいね。お義父さんもお義母さんも待ってますよ」
研究は食べてからにしますか。
ちなみにイ家はかかあ天下の血筋です。