孤独な魔術師が手に入れたていた絆
side イ・コージ
朝一で所長室に呼ばれたんですが、何時も以上に空気が重苦しいです。
「昨日、レクレールがサン・エルフ帝国に戦争を仕掛けました。イ・コージーさんの予想した通りチャームを使用したそうです。対象範囲はサン・エルフ全体だそうですよ」
国丸ごとにチャームを掛ける、理論上は不可能じゃないですけれどもコストやリスクを考えたら普通は実行しないでしょうね。
そう、普通なら…
「恐らく事前に100人単位の南エルフにチャームを掛けたんでしょうね。そして術者のチャームと同調させたんでしょう。きっとサン・エルフの国境周辺には全魔力と全生命力を使い果たして南エルフの遺体がある筈です」
多分、干からびてミイラの様になっているでしょう。
「確認はとれていませんがサン・エルフは壊滅状態だそうですよ。レクレールから宣戦布告されていたみたいですが、準備をする前にやられたといった感じですね」
「レクレールはチャームを展開する準備が整ってから宣戦布告したんでしょうね。所長、私はレクレール対策に専念してよろしいでしょうか?」
文字通り命懸けの開発になるんですから。
「その為にイ・コージさんを呼んだんですよ。…デュクセンの牢屋で貴方を死なせずに済んで良かったです」
しかし何をするにしても必要なのは人と金です、デュクセンの研究所にいた時にはどちらも私にはありませんでした。
「所長、お願いがあります。今から言う人達を至急集めてもらえますか?」
そう、昔と違って今の私には心を許せる人が沢山いるのですから。
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事が事なので所長は私に新しい研究室を用意してくれました。
そこに集まってくれたのは私の助手で大切な恋人でもあるリア・クローゼ。
私の大切な可愛い義娘のキャロル・リーチェ。
私の尊敬するエリーゼ・ロックオーガ先輩とエリーゼ先輩の旦那さんで傭兵隊の隊長でもあるガドイン・ロックオーガ伯爵。
身分の違う私を敬ってくれる年下の友人クリス・アレクサンドラさんと婚約者のチェルシー・ポンさん。
私の弟のイ・ケメンと姪っ子のイ・ライラ。
「コージ、ガドインやアレクサンドラの坊主を呼び出すって事はかなりヤバい事があったのか?」
突然の召集に不振がっている皆さんの中で口火を切ってくれたのはエリーゼ先輩でした。
エリーゼ先輩の言う通り平民である私が伯爵家の当主であるガドインさんや子爵家の跡継ぎであるクリスさんを呼びつけるなんて不敬として罰せられてもおかしくありません。
「昨日、レクレールがサン・エルフ帝国に戦争を仕掛けたそうです。レクレールはサン・エルフの殆どの国民にチャームを掛けたらしく1日でサン・エルフは壊滅状態になったそうです」
私の一言で重苦しい空気が研究所を包み込みました。
「国民にチャームを掛けて国を支配するか…レクレールの連中は先を考えてないのか?」
ガドインさんの言う通り、レクレールのした事は他の国全てを敵に回しかねません。
「恐らくはレクレールはかなり追い詰められていたのかもしれません。所長の話ですとここ数年レクレールの作物の収穫量は激減してるそうですから」
「自分の国に作物が無いからチャームを掛けて他国の国民に持って来させたんですか。それだと一時しのぎにしかならないんじゃないでしょうか?」
流石はクリスさん、直ぐに話の内容を理解してくれたみたいですね。
「レクレールの考えは多分こうです。レクー様の光が行き届いていないから周りの国は我等に作物を分け与える優しさを失っている。だからこの世界の全てにレクー様の光が届けて彼等に優しさを思い出させてあげよう」
レクレールは自分達の行動を無理矢理でも正当化させるのが得意ですからね。
「普通なら胡散臭く思える話でも実際に奴らと戦った立場からすると笑えねんだよな」
エリーゼ先輩がため息混じりに嘆いてます。
「それでコージ兄さんは何をするつもりなんですか?」
相変わらずケメンは愛想がないと言うか単刀直入と言うか。
「レクレールのチャームの絡繰りは予想がついてます。私はチャームに対抗する新しいマジックアイテムを作ろうと思います。その協力を皆様にお願いしたいんです」
みんなに頭を下げてお願いをします。
下手をしたら異端者審問隊に命を狙われかねないんですから。
「コージ、お前は馬鹿か?ここにいる殆どの奴がルーンランドの人間なんだぜ、頼まなきゃいけないのは俺達の方だろうが。とりあえず3課でお前のエーテルとポーションを大量生産してやる。それと新しいマジックアイテムが出来たら俺の所に持ってこい」
エリーゼ先輩が私の頭をペシペシと叩いてきます。
「確かに間違いねえな。それなら関係者の所にうちの連中を派遣させてガードさせるぜ」
ガドインさんがエリーゼ先輩と見つめ合って笑います、正に似た者夫婦。
「必要な魔石や鉱石があったら遠慮なく言って下さい。チェルシーは開発のお手伝いをするんだろ?」
「は、はい!!ク、クリス…様」
初々しいと言うかなんと言うかチェルシーさんは婚約者のクリスさんを呼び捨てに出来ずに顔を真っ赤にしています。
「ライラもコージ兄さんの開発を手伝うんだろ?それなら俺はさらに強力なローブとかを作る」
「アリスさんと一緒にだろ?ケメンおじさん」
ライラから聞いた話だとケメンとアリスさんの仲はかなり進展してるそうです。
「それじゃ私もパパのお手伝いをするね。ピティちゃん、テレサちゃん、ライズちゃん、アルバちゃんはパパに魔術を習いたがっていたからフローラとソニアは他の4期生の教育係かな」
私の元気の源、キャロルがいてくれたらやる気が倍増するでしょう。
「それならー私は何時も通りコージのお世話をしますねー。栄養と愛情がたっぷりと詰まったお料理を作りますからねー」
そしてリアがいてくれれば安心して無茶が出来ます…きっと今リアがいなくなると私は体を壊すと思います。
レクレールと戦うと言うことはかつての親友アレキスと戦う事になるでしょう。
でもアレキス覚悟していて下さい、私はもう1人じゃないんですから。
チャームなんかじゃなく絆で支えられたルーンランドのイ・コージを見せてあげます。
イ・コージも最終章です