おじさんマジシャンの試合
久しぶりの更新
side イ・コージ
試合に出るのは私なのに、私を置いてけぼりにして試合の準備が進んでいきます。
1人ぐらい長旅で疲れているから無理をしないで下さいって言う人はいないんでしょうか。
ちなみに私は休憩室に1人ぼっち、言い方を変えれば逃走防止の軟禁なんですけどね。
「コージ先輩時間だ。期待しているよ」
私を迎えに来てくれたのはメイさん。
「期待ですか。いきなり試合をしてワルキュレアの皆さんは困惑しませんか?」
いきなり来た外国人のおじさんと自国の女性が試合なんて、普通はどん引きです。
「いや、ワルキュレアでは度々、この様な試合をよく国が主催している。国民の娯楽になっているんだ。試合は女性対男性が殆どだけどね」
「早い話が現政権維持の為に女性優位を見せている訳ですか」
「ああ、確かにそれで秩序は保たれているが能力のある男性は次々に国外に出て行くし、女性も井の中の蛙になってしまっている。ここはコージ先輩に目を開かせてやって欲しい」
そうは言いますけど、私としてはバインド(拘束)やフラッシュで戦闘不能にしたいんですよ、でもその為には距離を詰める必要があります。
それで試合中に間違ってユーリーさんの体に触ったりしたら大ヒンシュクでしょうね、確実に先輩に殴られリアに振られてキャロルに嫌われます。
だとしたら遠距離、中距離で試合を決めなきゃいけませんか。
触媒も揃ってない、近づけない、勝っても得る物がない、負けたら碌な事がない、触ったら後がない。
ないない尽くしの試合ですね。
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ないない尽くしがもう一つ増えました。
ユーリーさんへの歓声が物凄くて私への応援が殆どないんです。
「臆病な男が良く逃げ出さずに来たな。誉めてやろう」
ユーリーさん、そんなに挑発しなくても私はMじゃないんですから。
「部屋に見張りを着けてちゃ逃げれる訳がないじゃないですか。しかし凄い人気ですね」
「当たり前だ。ワルキュレアで男を応援する馬鹿はいない。やる気が失せたのなら逃げてもいいぞ」
「試合前から勝つ気ですか?もしかしたら強い相手と戦った事が少ないんじゃないですか?」
「当たり前だ。私より強い男なんていないからな。今回は特別に全力をだしてやろう」
これで確定しました。
彼女は本当の戦いを知らないんですね。
「これよりワルキュレアとルーンランドの親善試合を行います。まずはワルキュレア代表ユーリー・ジョソン、又の名をワルキュレアの氷の華」
ユーリーさんが紹介されると物凄い歓声があがりました。
「続いてルーンランド代表イ・コージ、又の名をメタボリックマジシャン」
湧き上がる失笑とブーイング、そして腹を抱えて笑い転げているエリーゼ先輩。
これは先輩に感謝しないといけませんね。
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side キャロル
パパがまたトラブルに巻き込まれたみたい。
今度はワルキュレアの魔術師との親善試合。
ルーンランドの応援席はスペースが限られいて手狭だった。
その為ここぞとばかりにチェルシーは尻尾を振りながらクリスさんの所に、ソニアは"私がいないとカペーはダサいからワルキュレアの女性に絡まれるかも知れないから仕方なく行くんです"と微妙な言い訳をしながらカペー君の側の席を確保している。一方、研究室のメンバーはリアさんは熱気全開でヒートアップ中、エリーゼ主任は酒瓶を片手に持ちながらの応援だ。
「エリーゼ主任、パパ勝てますかね?どう見てもアウェイですよ」
「大丈夫、大丈夫。あいつがアウェイぐらいでヘコむ男だと思うか?それに魔物を相手にしてる時はいつもアウェイなんだよ。それっメタボリックマジシャン頑張れー」
パパのメタボリックマジシャンって異名はエリーゼ主任が決めたみたい。
試合開始と同時にユーリーさんが床に水色の玉をバラまいた。
「へー、魔石をあんなにバラまくとは随分と本気みたいだな」
「あれって魔石なんですか?あんなに大量に使われたらパパ怪我をしちゃうんじゃないですか?」
「逆だよ、逆。あんなに魔石を使う奴にコージが負ける訳がねえよ。まっ、見てなって」
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side イ・コージ
私を取り囲む様にバラまかれた大量の魔石。
確かこの魔石は水属性があり、結構なお値段な筈…2、3個偶然に私のポケットに入ってしまうかもしれません。
「終わりだ!アイスフラワー」
メイさんの叫び声と同時に私の足元に氷の花が咲きました。
当然、氷の華と言う異名と水属性の魔石からある程度の予想はついていたので避ける事が出来ましたけど。
「ほう、避けたか。それならアイスボール」
拳大の氷の塊が私目掛けて飛んできます。
「ストーンニードル」
ユーリーさんが唱えたアイスボールも私が唱えたストーンニードルも初級魔術です。
2つの魔術は空中でぶつかり私のストーンニードルが弾かれて落下しました。
「器用にぶつけてきたが威力負けしては意味がないだろ?それアイスボール。逃がさないぞアイスフラワー」
そうなる様に魔力を調節してたんですけどね。
多分、ユーリーさんはアイスフラワーで足場を狭めてから攻撃魔法でトドメをさすつもりなんでしょう。
アイスボールは私を追い込む為の囮、最後はもっと強力な魔法を使うと思います。
「ストーンニードル、ストーンニードル、ストーンニードル」
私がストーンニードルを放てばユーリーさんはアイスボールを放つ、ユーリーさんがアイスボールを放てば私がストーンニードルを放つ。
まさに一進一退の攻防の繰り返し、先に魔力が尽きた方が負けですね。
「中々やるね。私に奥の手を使わせるなんて」
そう言ってユーリーさんは懐から小さな容器を取り出しました。
「エーテルですか。やれやれ魔力が尽きる前に勝負をかけますか」
足元のアイスフラワーを飛び越してユーリーさんに近づこうとすると
「忘れたのかい?魔石がある限り僕には近づけないんだよ。アイスフラワー、凍りつきな…アイスフラワー、アイスフラワーなんで発動しないんだ?」
「良く見て下さい。魔石は私が放ったストーンニードルで押し潰しされていますよ。…バインド、これで負けを認めてくれますね」
「わざとなのか?わざとストーンニードルの威力を落として放っていたのか?」
「当たり前でしょ。それが目的でしたし、何があっても良い様に魔術師は魔力を温存しておかなきゃいけないんですよ。魔術師が魔力を使い切る時は死を覚悟した時だけです。武も魔も絶対的な強者なんていないんですよ」
実際、いつ何があるか分からないのに魔力を使い切る度胸なんて私にはないです。
それと使い切った時はお説教を受ける覚悟も必要ですね。
とりあえず明日の船の時間までぐっすりと寝たいです。
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「おらっ!コージ飲め!俺の次は旦那からだからな。残すなよ」
私の勝ちを祝っての祝勝会は朝まで続き、お陰で私は二日酔いと船酔いの二重責めと言う地獄を味わいました。
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