胃の痛くなる入居者と新たな指令
side イ・コージ
胃が痛いです。
リアから早く帰りなさいって視線が突き刺さっているのにメイさんは全く動じる様子がありません。
だからリアの視線は自然と私に来るんですよね。
でも私はこの研究室の室長です、言わばこの部屋の主です。
「メイさん、多分助手席の方々が到着を待ってると思うので早く研究室に戻ってはいかがでしょうか?」
これが私の精一杯なんですよ。
第一メイさんは私とリアの関係を知らないんですから。
「そうだね。あまり待たせると今後の人間関係に響くよね。それじゃ先輩また頼りにしてるからよろしく」
メイさんは敬礼をして研究室から出て行きました。
「コージー!!よろしくされてーよろしい関係に戻っちゃうんですかー?」
何でしょうか、リアの答え次第では刺しますよオーラが全開です。
「それはないですって。第一あの人が興味あるのは研究だけですよ。研究済みの私には興味がありませんって」
「それなら何で宜しくなんですかー?今日は誤魔化されませんからねー!!」
リア、今まで誤魔化された事がない癖に。
「あれは素材の融通や研究所の人間関係を教えて欲しいって事ですよ。あの人は頼み事がうまくいく為だけに身なりを整える人なんですから」
見た目がいい方がお願いが通じやすい、それをとことん利用出来る人なんですよね。
「それにコージも引っ掛かった訳ですねー。本当に男はきれいな女にー甘いんですよぬー」
胃だけじゃなく耳まで痛いです。
「あっ、急ぎの依頼がなければ私は採集に行こうと思うんですけど。残りの時間でチャーム対策をしなくちゃいくませんし」
決してこれは逃げなんかじゃありません。
職場の空気が悪くなった時に煙草を吸いに行ったり得意先回りに行くのとは違うんですよ。
「なーに言ってるんですかー?お仕事、依頼は山積みなんですよー。新居の為にもバリバリ働いてもらいますからねー」
助手の時は無理しないで下さいって言ってたのに。
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付与、付与、付与、魔石、魔石、魔石…。
正直泣きそうです。
何でしょう、このいじめみたいな仕事の分配量は。
うちは私とリアしかいない小規模研究所なんですよ。
「コージー頑張って下さいー。予定量まであと少しですよー」
一瞬、一休みしませんかを期待した私が馬鹿なんでしょうか。
「あのリア一休みしませんか?」
「今日頑張ったらー、夜にお部屋に遊びに行っちゃいますよー」
哀しいかな、男の性です。
予定より多くの作業をこなしてしまいました。
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やっぱり我が家は良いですね。
何より、この後にお楽しみな時間が待ってるんですよ。
「パーパー、お客様だよー。入居希望だってー」
可愛い義娘、キャロルに呼ばれて行くとそこにいたのは
「メイさん?…残念ながらお部屋は予約で一杯なんですよ…」「そうか、ここは先輩の家なのか。部屋は2階だそうだね。案内を頼むよ」
背後からもの凄い迫力を感じて振り返ると、そこにいたのは鬼じゃなく…鬼の様ならオーラをだしているリアでした。
「私がー案内してあげますよー。コージの今の彼女の私がねー」
「昔よしみ割り引きに期待してるよ先輩。それじゃ案内を頼むよコージ先輩」
いくらリアが露骨に嫌な空気を出してるからって、この流れで私に頼みますか?
「パパの代わりに私が案内しますよ」
キャロル、ありがたいんですけど今その呼び方は…
「パパ?先輩に娘はいない筈だよね」
「義理の娘ですよ。遠縁ですが将来的に養子にしようと考えています。キャロル挨拶をしなさい」
「キャロル・リーチェです。将来的にはィ・キャロルかキャロル・クローゼになる予定です」
私、逃げちゃダメですかね
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当然、リアとのイチャイチャはお預けをくらいました。
そして今私がいるのは胃が痛くなるスポットNo.1の所長室です。そしてそこにはエリーゼ先輩とメイさんと言う地獄の組み合わせが待っていました。
「イ・コージさん、私に随行してエレガンス王国に行ってもらいますよ。他にはロックオーガ伯爵夫妻と傭兵隊のみなさん、クリス・アレクサンドラ子爵、お祝いの歌を歌うマジックガールズさん、他国の魔術師に顔が広いメイ・ジーナスさんが一緒に行きます」
「コージ、断るとは言わせないぜ。旦那は仕事で忙しいからお前が酒に付き合え」
それは朝まで付き合えって話ですよね。
「コージ先輩との旅か。旧交を暖める良い機会だな」
私はリアとの板挟みになりますけどね。
そんな時所長が私に1枚の紙を渡してきました。紙には
"レクレールの参加が確認されましたよ"
そう書かれていました。
またクロスします