胃が痛くなる依頼人
side イ・コージ
依頼書を確認して愕然としました。
今回のお仕事の場所はデュクセン皇国のシールンなんですが、依頼人はなんとシールン領主のシーメン・ジガーク子爵。
依頼内容はジガーク家が所有しているマジックアイテムの修理だそうです。
聞いただけで胃が痛くなってきました。
「コージさん、ジガーク子爵ってどんな人なんですか?」
「ジガーク様は私の故郷であるホーフェンも治められており、性格は厳格実直そのもの曲がった事や嘘偽りが大嫌いな方です」
白い物にちょっとの黒い点があるだけでも白と認めず、それを白と報告すれば虚偽の罪で断罪しかねないお方。
「デュクセンはー騎士道を重んじますからねー。見た目はどんな感じなんでーすかー?」
「騎士道を重んじる方ですので引き締まった体に短く刈り込んだ髪、鋭い目つきに決して弛まない口元。まぁ私と違って格好良いのは確かですよ。確か今年で50歳になられる筈です」
一度ホーフェンの収穫祭でお顔を拝見した事がありましたが物凄い迫力でした。
「なんか怖そうな人だね。パパ大丈夫?」
「キャロル、向こうに着いたら敬語を忘れないでくださいね。商人がジガーク様に友好的に話し掛けたら"無礼者っ"と一喝されたらしいですから」
その時の迫力を想像しただけで手が震えてきますよ。
しかも領主様所有のマジックアイテムです、失敗したら罰がありそうです。
だから私に仕事を回したんでしょうね。
「それだけ厳しい人だとー領地にはテガ主任が出張でよく行っている娼館はないですよねー」
そう言えばテガ主任、酔っぱらった時に出張での武勇伝を大声で話してましたね。
「ジガーク様の領内には、風紀を乱すとの理由で娼館やレディス・バーの類は一切ありません。酒場で知らない異性に話し掛けるのも禁止されているくらいですから」
私の場合、首都デュクセンに行ってからも女性に声を掛けれませんでしたが、もし今それをしたら…お説教フルコースでしょうね。
「今回はコージさんの実家に泊まるんですよねー、お土産は何を買って行きますかー?」
はい?私まだ耳は遠くない筈なんですけども。
「私、実家にはあまり行きたくないんですけども」
「パパ駄目だよ、私ご先祖様のお墓参りをしたいし」
私の母親とキャロルのお婆さんは従姉妹、確かキャロルのお婆さんが娘時代にルーンランドに越した筈です。
「そう言えばマリーもホーフェンに来た時は関心に墓参りをしてましたね」
キャロルの母親マリー・リーチェも子供の頃は毎年ホーフェンに来てました。
あの頃はマリーに再会するのが楽しみでしたね
「もしかしてお母さんがパパを頼らなかったのはジガーク子爵の事も原因なのかな?」
「理由の1つにはなっていたでしょうね。部下の騎士が学生の彼女を妊娠させたら即クビにしたお方ですから」
民の模範たる騎士が結婚前の子女を妊娠させるとはあってはならない、でしたね。
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ルーンランドから首都デュクセンまでは乗り合い馬車で3日、そこからシールンまではさらに1日掛かるんですけど。
この状態が後4日も続くんでしょうか、物凄く世間の目がとっても痛いです。
私を挟んで右にキャロル、左にリアが座っているんですけど。
「パパ、パパ見てみて!!綺麗なお花が咲いてるよ」
「コージさん、お茶ー飲みませんかー?」
世間様から見たら中年のおじさんが若い娘をはべらかせている様に見えるんでしょうか?
でもリアは助手でキャロルは義娘、艶っぽい展開なんてありえないんですよ、むしろ監視役。
つまりイ・コージの最近お金を貯めたからデュクセンで色々と羽を伸ばしちゃいましょう計画が水の泡と消えたんです。
今日泊まるのはルーンランド領内の宿場町です。
ちなみに今回のリアとキャロルの旅費は私が負担しています。
キャロルは義娘だから私が負担するのは当たり前ですし、リアの旅費は男の甲斐性だからパパが出しなさいってキャロルに押し切られたんですよ。
キャロルは多分リアが私に好意をもっていると勘違いしてると思うんです。
「さて宿屋に行きますか、部屋はキャロルとリアが相部屋でかまいませんか?」
「いいですよー、そういえばコージさんがルーンランドに来た時はどこの宿屋に泊まったんですかー?」
「あの時は立場上馬車に車中泊をしました。だからここの宿屋は初めてですよ。たしかこの町にも冒険者ギルド運営の宿屋がある筈です」
明日にはデュクセンですか。
まさか生きて帰って来れるとは夢にも思いませんでしたよ。
でも身内じゃない女性を連れて帰ったりしたらジガーク様に叱られませんかね。
side キャロル
パパはデュクセンの話をする時は決まって複雑な顔をする。
パパに聞いたら"デュクセンには思い出したくない過去が沢山ありますから"って苦笑いをしたんだ。
懐かしくても帰れない故郷、自分の全てを否定された故郷、それがパパにとってのデュクセン。
旅の間もパパは"お尻は痛くないですか?"とか"馬車酔いしたら私の肩にもたれて寝ればいいですよ"とか"せっかくの旅だから好きな物を注文すればいいですよ"って優しくしてくれた。
パパと会ってから、私はすっかり甘えん坊になった感じがする。
そんな大切なパパを辛い過去から守ってあげるんだ。
side リア
コージさんはデュクセンが近づくにつれて複雑な顔をしていた。
コージさんのデュクセンにおける最後の立場は死刑囚。
多分、いやきっとデュクセン時代のコージさんは自分の事を省みず、そして誰にも省みられずにいたんだと思う。
色々と理不尽な目にあいながらも頑張った結果が死刑囚。
だからこれからは私が一番の近くで彼を見ていたいと思う。
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