テンション高い時ってよくミスしませんか?
side イ・コージ
自由って素晴らしいですよね。
私は犯罪者じゃなくなりましたから、材料を集めに郊外へ出掛けようが、冒険者ギルドに登録しようが、魔術学会の発表を聞きに行こうが自由なんです。
何しろ今度の依頼にはある魔物を倒す必要があるんですよ。
ついでに冒険者ギルドに再登録すれば小遣い稼ぎも出来てしまうんです。
でもリアやキャロルにバレたら全力で止められるでしょう。
だから内緒で来ました、ルーンランドの冒険者ギルド。
ここに登録しておけば依頼を受けれるし魔物の生息区域も教えてもらえるんです。
幸いに私のギルド登録は期限切れになっていただけなので直ぐに再発行してもらえました。幸運は続くもの、私の目当ての魔物が討伐対象になっていたんですよ。
とりあえず深呼吸をして落ち着きを取り戻します。
それで不思議な事に気付きました。
昔と比べてギルドが妙に賑やかなんですよ。
確かルーンランドの冒険者ギルドはそんなに規模は大きくない筈なんですけどね。
そんな時です、運命の女神様が悪戯な笑みを私に向けてきたんです。
「どうもマジックガールズのチェルシーだよ。今日僕達マジックガールズは冒険者ギルドのお勉強に来たんだっ!」
音声拡大魔法で大きくなったチェルシーの言葉に物凄い歓声があがりました。
今のうちです、依頼書を受け付けにだしてしまえばバレる訳がありません。
「それで掲示板のところにはメンバーのキャロルが行ってるんだよ。キャロル冒険者の人にインタビューをよろしくっ!!」
はい、幸運続きで周りの気配に気を配っていませんでした。
背後から冷たい目線を感じて振り向くと、そこには営業スマイルだけど目は笑っていない義娘のキャロルがいました。
「うん、チェルシー任せてっ!ち・ょ・う・ど魔法使いのおじさんが依頼書を手に持っているからお話を聞いてみるねっ」
キャロルの言葉と共にガードマンさん達が私とキャロルを取り囲みました。
「ねえ、おじさんは何の依頼を受けるつもりなの?」
キャロル、笑顔でパパの足を踏むのは止めて下さい。
何でみんな羨ましそうしてるんですか?
私プチ家庭外暴力を受けてるんですよ。
私が躊躇しているとキャロルは営業スマイルのまま、更に足に力を入れてきました。
「コ、コウアースリザードの討伐を受けようと思いまして」
周囲から歓声があがります。
コウアースリザード、別名威圧トカゲ。
身の丈は3mほどで、相手に威圧の魔術をかけ身をすくませてから襲う厄介な魔物、私はコウアースリザードの額にある威圧の魔術の材料になる角が欲しいんです。
「おじさんす・ご・い。ま・さ・か・1人で退治に行・くん・で・す・か?」
キャロル、パパの足をリズムに合わせて踏むのは止めましょう。
「ええ、何度か倒した事がある魔物ですので。1人でも大丈夫です」
「凄く強いおじさんがいました。詳しい話をステージで聞いていいですか?」
嫌と言わせないキャロルの目線。
コウアースリザードより威圧感がありますよ。
「残念ながら、ちょっと急ぐんですよ。どうせなら若くて格好良い冒険者さんにインタビューしてはどうでしょうか?」
チェルシーさん、ソニアさん、フランソワさん、アリスさん助けて下さい。
「うーん残念。キャロル違う人にインタビューしてみてっ」
偉い、偉いですよ。
チェルシーさん、おじさんが実習評価に下駄をはかせてあげます。
そしてキャロルは擦れ違い様に物凄く低い声で
(パパ、お話があるから絶対に控え室に来てね)
そう呟いて行きました。
色々と事情を打ち明けてあるザギンマネージャーが私の肩に手を置いてきます。
「イ・コージさん頼むからキャロルちゃんのご機嫌を斜めにしないでくれるかなー。あの娘すっかりパパっ娘になっちゃたんですよ」
それは嬉しいですし、キャロルの過去を思えば仕方がないんですよ。
――――――――――
イ・コージです。
ただ今マジックガールズのファンの人達が憧れる場所であろうマジックガールズ関係者控え室にいます。
そして私が逃げ出さない様にザギンマネージャが入り口で待機。
「ザギンさん何時もキャロルがお世話になっている様でありがとうございます」
「いえいえこれが私の仕事ですから。それにお礼を言わなきゃいけないのはこちらの方ですよ。イ・コージさんにはガードでお世話になっていますし何より貴方と知り合ってからキャロルの魅力が増したんですよ」
キャロルから聞いた話では母親のマリーが仕事で忙しかった為に幼い頃から親の愛情に飢えていたそうです。
寂しい時は私の絵姿を見て再会を夢見ていたとか。
「私も今回の事はお仕事関連なんですよね」
かなり後ろめたいんですが男同士なら分かってくれる筈。
「言い訳する相手は私じゃないですよ」
ザギンさんと入れ違いに入ってきたのは
「コージさーん、貴方ってー人はーどうしてーちょっと目を離すとそうなんですかー?」
助手のリアでした。
「いやリアこれには深ーい訳がありまして」
何ででしょう、リアの顔が黒いオーラに包まれて目だけが光っています。
「言い訳じゃなくー周りの気持ちを考えて下さいー!!」
…討伐は明日にしましょう。
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