傭兵隊の若者とエリーゼ傍若無人?
エリーゼ先輩の旦那さんが出てきます
side イ・コージ
キーザンさんが、どこにいるか探していると
「やっぱりイ・コージさんも来ましたか」
私を見つけたクリスさんが話し掛けてきてくれました。
「クリスさん!良かった、キーザンさんが見つけられなかったんですよ」
クリスさんもハチマキやハッピを着ておらず周りから浮いています。
「キーザンさんなら、あそこにいますよ」
クリスさんか指さした先は所謂、関係者席。
関係者席で優雅にお茶を飲んでいるフルアーマーの男性、あれがキーザン・ナルシーさんですか。
キーザンは金髪に青い目で女性と見紛う程に整った顔をしています。
でもなんでしょう。あの無駄に装飾された鎧は
握手会にフルアーマーは必要ないでしょ?
「あの方ですか。でもあんな長い髪だと何をするにしても邪魔でしょうね」
フルアーマーを着るにも邪魔になりますし、鍛錬をするにも邪魔になると思うんですが。
「あまり鍛錬はしないでしょうし、鎧は従者が着せてくれるんでしょうね。おっとそろそろ僕等も並びましょうか。チェルシーとキャロルさんが気にし始めたみたいですから」
えっ?キャロルと握手ですか?
確かにこのまま握手をしないで帰ったら怪しまれますよ。
チェルシーさんとの握手の為に長蛇の列に並ぶのは勘弁ですし、ソニアさんに至ってはキモい扱いからストーカーの犯人にされそうですよね。
他のお2人の列に並んだのがバレたらキャロルがご機嫌斜めになるかもしれません。
でもパパは義娘をヨコシマな目で見ている人がいたらかなり本気なファイヤーボールを唱えちゃいそうなんですよ。
キャロルの列に並びながらも周囲を観察していたら不思議な少年がいました。
年は17、8くらいで、見た目はジャガイモみたいなお顔にイガグリ頭、目は糸目で素朴を絵に描いた感じです。
不思議と言うのは腰の運びや雰囲気から察して、中々の手練れだと思える事。
しかも、その子は列に並ぼうともせずにソニアさんの列に並んでいる人間を、それとなく観察をしています。
「ボーッとされてどうしたんですか?手をだして下さい」
キャロルに言われて気づきましたけど、いつの間にか私の番がきていたようです。
慌てて手を差し出すと、キャロルが爪をたてて握手をしてきました。
あー、私にお仕事を頑張っている姿を見せたかったんでしょうね。
若干、かわいい義娘はご機嫌斜めです。
ちなみにチェルシーさんはクリスさんと握手をした時に、他の人の数倍のこぼれんばかりの笑顔を見せていました。
ヒイキはいけないと思うんですけどね。
キャロルと握手を終えた私は会場の隅に移動します。
これだけ離れていたらキーザンさん探っても怪しまれない筈。
キーザンさんはまるで辺りを警戒していません。
小太りな人がソニアさんと握手をしていもお構いなしです。
そして彼が指にはめている派手な指輪に付与されている魔法は多分…。
「すいません!イ・コージ様だすか!オラはジミー・カッペーと言う者だす!」
ビックリしました、いきなり私に大声で話しかけてきたのはさっきの素朴な少年です。
「そうですけども、私に何かご用でしょうか?」
小太りなおじさんだからストーカーかと疑りました?
「いえ、イ・コージさんの事は隊長の奥様から良くお話を聞いていたので挨拶をと思いますて」
「えと、隊長の奥様とは誰でしょうか?」
「オラはルーンランド傭兵隊に入っているんだす。隊長の名前はガドイン・ロックオーガだす」
ロックオーガ?
「もしかして奥様ってエリーゼ主任ですか?」
「はいっ!オラは良く奥様にも稽古をつけてもらっています」
物凄く納得です。
あの先輩の旦那さんが勤まるなら傭兵隊の隊長ぐらい勤まりますよね。
「あれイ・コージさんとカッペーさん?珍しい組み合わせですね」
「ク、クリス様オラなんかにさん付けなんて勿体ないだすよ」
カッペーさんそんな恐縮しなくても…
まぁクリスさんは子爵家の人だし年上だから分かりますけども。
「クリスさんはカッペーさんとお知り合いなんですか?」
「ええ傭兵隊には護衛を頼む事があるので。彼の腕はロックオーガ伯爵のお墨付きですし」
ロックオーガ伯爵?
「ええっー?エリーゼ先輩は伯爵夫人なんですか?」
どっちかというと伯爵夫人じゃなく傍若無人じゃないですか。
「そういえばイ・コージさんはエリーゼ伯爵夫人ともお知り合いですもんね」
異端者審問隊の一件の時はクリスさんもエリーゼ先輩もいましたね。
「ええ、エリーゼ傍若無人じゃなくエリーゼ伯爵夫人は学生時代の先輩ですから。まさか先輩が伯爵夫人だとは知りませんでした」
「なんでも伯爵も若い頃は冒険者をしていて、その時に奥様と知り合ったそうですよ」
「隊長は身分に拘らず優しく接してくれるお人柄の上に優れた武人なんだす。オラの憧れ方なんだす」
ついでに女性のガサツさにも拘らないんでしょうね。
とりあえず私はマジックガールズのグッズを買って帰りますか。
もちろん、キャロルオンリーですけど。
次の日
「よお、コージ。昨日はマジックガールズの握手会に行ったんだって?お前も親馬鹿だな」
「これはエリーゼ傍若無人じゃなく伯爵夫人。ちょっと気になる事がありまして…ギャフッ」
久しぶりに先輩の鉄拳制裁を喰らいました。
「ああんっ!誰か傍若無人だっ。後は伯爵夫人だからって態度を変えたら殴るぞ」
もう殴ったじゃないです?
だから傍若…止めときましまょう。
「それで気にる事って何なんだよ?」
………
「ストーカーね。それでカッペーの奴、握手会に行ったのか。ったくあの馬鹿が。おいっコージ、今から俺の旦那の所に行くから知っている事を洗いざらい喋れよ」
――――――――――
いや、てっきり先輩の旦那さんだからゴッツい人かと思ったんですけとも、ガドイン・ロックオーガ伯爵はクールな二枚目でした。
短く刈られた銀髪に引き締まった体、切れ長の目。
伯爵よりも傭兵隊の隊長がしっくりときます。
「よお、お前がイ・コージか。女房から良く話は聞いているぜ」
「ガドイン、カッペーの奴がマジックガールズの握手会に行っていたそうだぜ。コージ詳しく話せ」
……
「ストーカー騒動にキーザンのガード、魔法が付与された指輪か…。騎士団のガキはよっぽどお仕置きされたいらしいな」
「しかし、まだ予想の域はでていません。ところでカッペーさんがマジックガールズを応援するとまずいんですか」
なんでもカッペーさんとソニアさんはルーンランドの同じ田舎村の生まれで所謂幼馴染みらしいのですが、ソニアさんは田舎生まれを隠す為にカッペーさんに二度と近づくなと言ったそうです。
ふむ、おじさんがまた一肌脱ごうじゃありませんか。
さあ今日のうちに書きためを作ります