イ・コージの体験学習
side イ・コージ
膝が痛いです。
日頃の運動不足の所為か、それとも増えた体重の所為なのか、長距離の徒歩の結果、私の膝が泣いています。
目的地の岩山に着く頃には私の膝は号泣していました。
「さて、これからアメジストの採集を行います。岩山の中腹にアメジストの坑道があるので、そこで採集を行います。私とエリーゼ主任が護衛役、リアが監視係です」
立場上、顔には出していませんが、かなり辛いです。
私の膝は中腹まで保ってくれるんでしょうか?
みんなに隙があれば疲労回復の魔術を使いたいんですけどね。
「パパ、勝手に鉱山で採集をして怒られないの?」
キャロル、あまりパパ・パパ言われるとただでさえ縁遠い私の婚期が遙か彼方に消えちゃんですけど。
……遙か彼方にでも、婚期があればの話なんですけどね。
「ここの坑道の周辺には魔物が多く出没する様になって今は廃坑状態なんですよ。何匹か魔物を倒せばアメジストを持ち帰るのを黙認してくれるんです」
「あのー僕あまり魔物さんに会った事ないんですけども、どんな魔物さんが出没するんですか?」
「この岩山にでるのはオーク、トロルたまにスピアゴートが出るそうです」
「スピアゴートってどんな魔物なんですかー?」
リアさんが、知らなくても不思議はないです。
スピアゴートは人気のない岩山に住んでいて冒険者ぐらいしか見る事がない魔物ですから。
「そのまんまだよ槍みたいな角を持った山羊さ。草食動物だけど気が荒くて下手な冒険者なら串刺しにされちまうんだよ。あいつの角は鋭いから加工すれば最高の槍が出来るんだぜ」
先輩が舌なめずりしそうな表情で説明をしてくれています。
つまりスピアゴートが出るかもしれないから、ここの岩山を選んだんですね。
「パパ、トロルやオークも素材になるの?」
「トロルはたまに骨を呪術の素材に使う人がいるくらいですね。オークの毛皮は防具の他に緩衝材として利用しますし、牙に魔法陣を彫り込めば立派なマジックアイテムになります」
トロルですか。
人語を話すトロルなんて誰も信じないでしょうね。
「今回の目的はあくまでもアメジストです。無理に魔物を討伐する必要はないですから安心して下さい。岩山に登る前に休憩しますか」
幸いな事に誰も反対せずに休憩となりました。
見つからない様に膝を治癒していたらリアが話し掛けてきました。
「コージさんは魔物と戦うのは怖くないんですかー?」
「魔物にしてみれば人間の方が怖いと思いますよ。自分達の住処にいきなり攻めて来て醜いとか、力が強いとか、倒すと金になるとかで魔物を滅ぼすんですからね。……魔物より人間の方が怖いですよ」
私と一緒ですよね。
容姿が醜いと忌み嫌われ、魔力が高いと同僚から敬遠され、創る物が金になると上司にはめられた…デュクセンでの私は、まるで魔物ですね。
「こぉーらーコージ!なに黄昏れてんだよ、過去より現在だろ。ったく今お前には可愛い娘に心配してくれる助手、優しくて綺麗な先輩、その他の実習生がいるじゃねーか」
先輩が元気づけるように私の背中を叩いてくれました。
「先輩ありがとうございます、そうですね現在を大事にしなきゃいけませんね」
「やっぱり僕はその他なんですか?僕アイドルなんですよー」
「チェルシーしょうがないじゃない。パパはアイドルに興味がないんだから」
「キャロルまで!リア先輩は違いますよね?僕をその他扱いにしませんよね」
不思議ですよね。
ルーンランドでは、私が一番苦手としていた綺麗な少女達と笑い合えているんですから。
(約1名は違い…やめましょう。この思考は確実に私の寿命を縮めます)
「さてそれじゃ行きますか。ここからはおふざけは無しですよ。1人の油断が全員の命を危険に晒す事を忘れないで下さい」
side キャロル
その言葉と同時にパパの雰囲気が変わった。
普段はニコニコして気の弱そうなパパだけども、今のパパは戦闘態勢にはいった魔術師になっていた。
エリーゼ主任もパパも体の力は抜いているみたいだけど、辺りを警戒している。
目的地の坑道まで残り半分ぐらいとなった時、パパとエリーゼ主任の表情が険しくなった。
「コージ…来たぞ」
「ええ、オークですね。前方にオークがいます。私が結界を張りますから皆さんは、その中で見ていて下さい」
パパが結界を張り終わるのと同時にオークが現れた。
学校の授業でオークの事は習ったけども、実際に本物を見ると怖い。
丸太の様に太い腕、槍の様に尖った牙、赤く血走った目。
「キャロル、僕恐いよ」
何時も元気なチェルシーも震えている。
「大丈夫、パパとエリーゼ主任が守ってくれるから」
前にパパが教えてくれた魔力が高いだけじゃ強い魔術師にはなれない。
敵と相対しても怯えずに仲間に何の魔法を付与して、敵の属性を見極めて適した魔法を放つ冷静さがなくちゃいけないって。
最初に動いたのはパパ、オークにパラライズを掛けて麻痺をさせた。
すかさずエリーゼ主任がオークの心臓を一突きにする。
「あーあ、穴を開けたら毛皮の価値が下がるじゃないですか!せっかく麻痺させたのに」
「相変わらず細かいな。今はオークの毛皮は在庫があるからいいんだよ。それよりキャロル、チェルシーこっちに来てオークの牙をとれ」
え?えー!!
無理、無理だって。
だって、あのオークはまだ胸から血を流してるんだよ!
パパに助けを求めても
「これも実習です。私達が使っている道具が何を犠牲にして出来ているか、体感して下さい」
そういうとパパは懐からナイフを取り出して私に渡した。
「そのナイフは魔物の解体用に切れ味を鋭くしてあります。それでオークの牙を切り落として下さい」
パパ、オークの目が私を睨んでるよー。
鶏やブタさんの解体は見た事はあるけれど、自分で手を掛けるのは初めてなのに。
何とかオークから牙を取ったらパパが頭を優しく撫でてくれた。
「忘れないで下さい。私達の便利な生活は何かの犠牲の上に成り立っています。それから目を逸らさないで下さいね」
パパの手は大きくて暖かくて、小さい頃から夢にまで見ていた父親という初めて存在を感じる事ができたんだ。
なんかキャロルとエリーゼ先輩に他のキャラが押し負けている気がします。
採集編はまだ続きます。