おじさんとダンスパーティー
side イ・コージ
なんとか、本当になんとか間に合いました。
納品できたのがコンサートに使用する物が前日で、チェルシーさんのバングルに至って当日になっちゃって、リアさんに届けに行ってもらっています。
そして今はもうお昼過ぎ、とてつもなく眠いんです。
ぶっちゃけダンスパーティーになんて出る必要ないですから。
寝ます、これから明日の朝まで爆睡します。
そう思った矢先です、所長が訪ねてきました。
「イ・コージさん、今日のダンスパーティーには是非出席して下さい。場合によっては現場で指示してもらいたいですから」
「しかし所長、私はスーツなんて持っていませんよ」
あるのは着古したローブだけですし。
「そんなに着飾っている人は少ないですからローブならまだ間に合いますよ。新品のローブを着ていたらダンスパートナーに誘われるかも知れませんし」
絶対にないです。
顔見知りの女性は殆どいないんですから。
「分かりました。自分で開発した物には責任を持ちたいので、新しいローブを買ってお城に行きます」
……
久しぶりに新しいローブを買いました。
色は地味さが私にぴったりな茶色です。
……
ルーンランドのお城は、デュクセンの無骨なお城と違いドーム型をした建物が巨大な魔法陣の上に建てられていました。
今日ダンスパーティーが行われるのは、そのうちの晩餐会等を行っている建物で行われるそうです。
所長の嘘つき。
周りの人達は思いっ切り着飾っていますよ。
思わずに受け付けに、
「魔法研究所の者です。昨日搬入したコンサート用のマジックアイティムのチェックに来ました」
必要以上に大声で説明しちゃいましたよ。
…………
建物は魔法が付与された石で造られていました。
可動式の壁でイベント会場、ダンスフロア等と区切れております。
私がいるのは庶民用の待機スペース、まぁ立ちっぱなしです。
そこでただ今、異国に独りぼっちな事を実感しております。顔見知りの同僚は恋人や家族で来ていましたし、所長は接待席にいるから近付けません。テガ主任は妙に派手はハッピは着て応援の練習をしていました、気付かれた終わりです。
帰ろうか悩んでいる私に声がかかりました。
「あっ、イ・コージさんじゃないですか?良かったら隣に座りませんか?」
クリスさんです。
クリスさんが貴族席に誘ってくれました。
貴族席は他の場所から少し高くなっており、コンサート会場も見えます。
おじさん貴方の為に頑張ったのは間違いじゃありませんでした。
「イ・コージさんとダンスパーティーで会えるとは思いませんでしたよ」
ちなみにあの一件以来、クリスさんに慕われたのか時々アレクサンドラ家のマジックアイティムのメンテナンスに呼ばれています。
「来るつもりはなかったんですけどね。マジックガールズのコンサート関連で私の開発したマジックアイティムを納めましたので」
side クリス
マジックガールズか。
チェルシー元気にしているかな?
「それで今度はどんなアイティムを開発したんですか?」
「ファンの暴走対策アイティムですよ。ここからも見えます。ほらっステージ前にあるあれですよ」
イ・コージさんの指さす先にあったのはパンパンに膨らんだ巨大な皮袋です。
「あれは皮袋ですか?」
「ええ、ジャイアントシープの皮を加工した物ですよ。効果はコンサートが始まったら分かりますよ」
コンサートが始まって少しした時です。
暴走したファンがステージに上がろうとしました。
(チェルシー逃げて…えっ?)
ファンが皮袋に体重を預けると、ズブリと沈んだかと思うとゆっくりと跳ね返されました。
何人行っても結果は同じです。
皮袋の反発力に逆らえずに押し戻されて他のファンの冷たい目線に晒されてしまい、諦める。
その繰り返しでした。
「イ・コージさんあれは?」
出来に満足したのか、イ・コージさんが嬉しそうに答えてくれました。
「あの中にはスライムが入れてあるんですよ。暗闇を好む性質のスライムに低反発等の魔法を付与してあります」
「スライムってあの洞窟にいるドロドロした魔物ですか?」
「そうですよ。スライムは付与魔法の影響を受けやすいんで魔法の効果を確かめるのに良く使われるんですよ。今回付与したのは低反発と衝撃吸収・軟体化・結合です」
イ・コージさんの説明によると皮袋の中のスライムは1つの個体に結合して、衝撃が加わわると吸収し、その物体をゆっくりと押し返すとの事。
「イ・コージさんありがとうございます。お陰でマジックガールズは無事にコンサートを終えたみたいです」
side イ・コージ
凄い行列です。
クリスさんの前には何十人もの女性が列をなしています。
でも指輪の反応は見事なまでに金欲を示す金色ばかり。
流石にクリスさんの顔にも疲れが浮かんできました。
……あの髪の長い猿人族の女性がチェルシーさんですね。
side チェルシー
リア先輩からもらったマジックバングルのお陰で僕は誰にも気付かれずにクリス様の近くまでこれた。
でも
(あークリス様が疲れちゃっているー。みんなお話が長過ぎなんだよー、それに香水を付けすぎ。クリス様は香水の臭いが嫌いなんだからー。クリス様待っていて下さい、僕がお側にいけば大丈夫です)
「あ、あのクリス様は僕が誰だか分かります?」
忘れられていたらどうしよう?
気付かれなかったらどうしよう?
断れたらどうしよう?
僕は怖くて目を伏せてしまう。
「チェルシー?チェルシーなの?」
久しぶりに聞くクリス様の暖かい声が僕の胸に沁み込みます。
「そうです、僕です。クリス様の一番のメイドのチェルシーです」
もう僕は嬉しすぎて尻尾が痛いぐらい振ってしまうのも止めれません。
「チェルシー、コンサート疲れたでしょ。良かったら座らない?」
I WIN!!!
僕は後ろに並んでいた、女達に勝者の笑みをくれてやりクリス様の隣に座った。
side クリス
金、金、金あの時と同じく指輪の光は金欲を示す金色ばかりでした。
その時指輪が暖かなピンク色の光を放ったんです。
そこにいたのは元メイドで今はアイドルのチェルシーでした。
あの頃と同じ笑顔で僕の隣に座るチェルシー。
ショートパンツから出た犬人族の特徴の尻尾がブンブンと激しく振れていた。
「クリス様、僕と一緒に踊って下さい」
夢じゃないよね?
「チェルシー、僕と踊って平気なの?」
「はい!このバングルのお陰です」
チェルシーが見せてくれたバングルには小さなルビーで可愛らしいチューリップが形作れていた。
「それはマジックアイティム?」
「そうです。イ・コージさんが作ってくれました。これを着けているとクリス様以外の人には僕が他人に見えるそうです!それと赤いチューリップの花言葉は僕の気持ちです……クリス様が教えてくれたんですよ。赤いチューリップの花言葉は愛の告白だって」
僕は返事の代わりにチェルシーを抱きしめた。
side イ・コージ
クリスさんとチェルシーさんの笑顔を見れただけでも、ダンスパーティーに来た甲斐がありました。
例え隣にいるのがダンスパートナーじゃなくこの人でも。
「イ・コージちゃん、1人で寂しそうだから来てあげたよ」
(奥さんに叱れて逃げた癖に、主任は相変わらず調子が良いですね)
「イ、イ・コージちゃん。こっちに歩いて来るあの美人は知り合いな訳ないよね」
主任が言った先にはピンク色の髪をした女性がいて、こちらに歩いて来ます。
確かに主任が騒ぐだけあって、その女性を見た殆どの人が美人だと認めるでしょう。
女性は私の前で立ち止まると白い手を差し伸べてくれて、こう言いました。
「良かったら私と踊ってくれませんか?」
「私で良ければ喜んでお相手しますよ」
私は彼女の手を取ると、一緒に歩き出しました。
「ちょっ、イ・コージちゃん。その人は誰なの?それより僕を1人にしないで奥さんに叱れちゃうんだから」
………
私と彼女は音楽にあわせて踊り出した。
「何で知らない私の誘いにのってくれたんですか?」
私が気付いてないとおもってるんですか
「これが成功報酬だと思ったからですよ。助手のリアさん」
「うー、つまんないですー。イ・コージさんは謎の女性とのダンスを楽しもうって気持ちはないんですかー?」
「そんな人の誘いなんて怖くてのれませんよ。リアさんだから誘いに応じたんですよ」
「そんな事を言っても誤魔化されないですよー。でも何で分かったんですかー?」
「髪の色も背丈も魔力も一緒ならわかりますよ。それに微かに薬品の臭いがしましたから」
「具体的過ぎますよー。普段から見てるから分かりましたとか言ってくれないんですかー?…チェルシーちゃんの件、ありがとうございました。でもどうやってクリスさんだけがわかる様にしたんですか?」
「チェルシーさんのバングルには触媒のナチュラルルビーが持つ変身の力を応用した誤認魔法だけですよ。私がいじり直したのクリスさんの指輪です。あの指輪に誤認魔法を無効にする魔法を付与しておきました。あの2つのマジックアイティムがある限りクリスさん達はデートをしてもばれませんよ」
クリスさんに贈れるおじさんからのプレゼントですよ
チェルシーが書いていておもしろいんです。
レギュラー化しようかな