聖女、配属される 〜魔王城じゃなくて役所に案内されました〜
光が降った。
神々しい。まぶしい。
「成功だあああああ!!」
「聖女召喚!!」
「この国は救われた!!」
神殿中がスタンディングオベーションだった。
鐘は鳴るし、床は光るし、誰か泣いてる。
中央に立つ少女――ミリアは、混乱していた。
(え、ここどこ?
ていうか私、さっきまでコンビニでバイトしてなかった?)
「聖女様!!」
神官長が跪いた。
「どうか魔物の脅威から我が国を――」
その瞬間。
ガチャ。
神殿の扉が開いた。
「失礼します」
場違いにもほどがある声だった。
拍手も光も完全無視。
入ってきたのは、
地味な色の事務服を着た人物。
手には書類。夢も希望も挟まっていない。
「内務省・調整課です」
神殿が真空になった。
「……え?」
「召喚事案の確認に来ました」
調整官は光る床を踏みながら、
一切感動せずに歩いてくる。
「聖女様、ですね」
「は、はい……?」
「能力確認をします」
突然の職務質問。
「浄化できます?」
「え、あ、はい」
「病気治せます?」
「はい……?」
「結界は?」
「たぶん……」
「はい、OKです」
ペンが走る。
「では配属先ですが」
「え、配属?」
「はい」
「魔物討伐隊?」
「いいえ」
「勇者と一緒に前線?」
「いいえ」
「魔王城?」
「いいえ」
神官たちが身を乗り出す。
「……どこです?」
「衛生局です」
沈黙。
「……え?」
「水道、下水、感染症対策、あと災害後の消毒作業です」
「……聖女、ですよ?」
神官長が震える声で言った。
「はい」
「聖なる存在ですよ?」
「国家公務員です」
「前線で祈らないんですか!?」
「祈るときは申請してください」
「魔物は!?」
「管轄外です」
「魔王は!?」
「管轄外です」
「勇者は!?」
「今、報告書を書いています」
ミリアは、そっと手を挙げた。
「……あの、私、剣とか振れないんですけど」
「問題ありません」
「詠唱とか……」
「任意です」
「命がけの戦いは……?」
「業務外です」
「え?」
「討伐に出ると怒られます」
「ええ!?」
「危険行為ですので」
「聖女なのに!?」
「聖女だからです」
神官たちが次々に崩れ落ちていく。
「勤務時間は?」
「九時から十七時です」
「休みは?」
「週休二日です」
「残業は?」
「災害時のみありますが、代休が出ます」
「……ホワイトすぎません?」
「国ですので」
ミリアは少し考えた。
魔王。
血。
死。
水道。
病気予防。
定時。
「……その、えっと」
「はい」
「そっちの方が、人が助かりませんか?」
「はい」
「……じゃあ、頑張ります」
神官たちは天を仰いだ。
こうして聖女ミリアは、
白いローブではなく
動きやすい作業着を支給され、
「このハンコは押さないでください」
「それは別部署です」
「勝手に浄化すると怒られます」
という指導を受けながら、
今日も元気に水質改善をしている。
なお――
一度だけ魔物を見かけて
反射的に浄化しようとしたところ、
「聖女さん!それ、地方討伐隊の担当です!」
と、全力で止められた。
国家公務員が最強職でした。




