夜明けに咲く幻想 — 第2章
翌日の夕暮れ、陽菜は大学の帰り道で、昨夜のことを思い返していた。まるで夢のようで、信じられない気持ちが胸を占める。
「いや、絶対あれ夢だよね…幽霊なんて…」
そう自分に言い聞かせながらも、路地の端にちらりと見えた銀色の尻尾が目に入った。狐太――狐の妖怪は、昨日と同じ場所で、こちらを見ていた。
「やっと見つけたね、人間」
「え、な、なに?」
狐太は軽やかに飛び跳ね、陽菜の前にぴょこんと立った。腰の高さほどの小さな姿だが、目にはどこか悪戯っぽい光が宿る。
「君、昨夜はちょっと面白かったよ」
「面白…?何が?」
「小夜さんに守られるの、必死すぎて笑えた」
狐太の言葉に、陽菜は思わず顔を赤らめた。
「ば、バカ…笑わないでよ!」
その瞬間、水辺から「ぽちゃん」と小さな水音がした。河童、水丸だ。丸くて大きな頭と甲羅が見え、のんびりした顔でこちらを覗き込む。
「お、君が新しい子かな?」
「そ、そうです…えっと、水丸?」
水丸はのんびり座りながらも、目だけは鋭く街の様子を観察していた。
「ふふ、夜の街は面白いね。昨日は水路がちょっと騒がしかったよ」
「騒がしかった…って何ですか?」陽菜が尋ねると、狐太はにやりと笑った。
「見ればわかるさ。夜には色々いるんだ、面白いやつらがね」
そのとき、路地の奥で微かなざわめきが走った。木箱がひとりでに動くように揺れ、何かが中から顔を出す。
「また小さな事件か…」水丸が呟く。
狐太は目を輝かせ、陽菜の手をひょいと引く。
「ほら、行こうよ。君も少しは戦力になれるかもね」
恐怖と期待が入り混じる胸の奥で、陽菜の心臓は早鐘のように打った。
「…え、私…戦うの?」
「戦うも何も、見逃すわけにはいかないだろ?」狐太はいたずらっぽく笑う。
路地に広がる影の中で、街の夜は少しずつ、妖怪たちの息吹を感じさせはじめた。




