夜明けに咲く幻想— 第1章
街灯の明かりがまばらに並ぶ夜道。佐倉陽菜は、いつもの帰り道を急ぎながら、どこか胸騒ぎを覚えていた。空気がざわつき、遠くから微かに聞こえるささやきに、思わず足を止める。
「…誰かいるの?」
薄暗い路地の影から、白い影がふわりと浮かび上がった。長い黒髪と白い和服の少女。目が合うと、淡く光るその瞳に、陽菜の心はぎゅっと掴まれた。
「あなた…見えるのね」
その声に導かれるように、陽菜は一歩踏み出した。夜の街は、いつもと同じなのに、どこか異世界のように感じられた。
小夜は微笑むでもなく、ただじっと陽菜を見つめる。すると、突然その場に小さな揺らぎが走り、目の前の空気がほんのわずかに震えた。
「助けて…」
その一言に、陽菜の胸は高鳴る。恐怖でもなく、驚きでもなく、何かに突き動かされるように足が前へと進む。夜の街は静まり返り、ただ二人の気配だけが存在していた。
影の端から、銀色の尻尾がちらりと見えた。いたずら好きそうな狐の姿。次の瞬間には、陽菜の前を軽やかに飛び越えて消える。
「…え、ちょっと待って!」
しかし声は届かず、狐は微笑むように姿を消した。
そしてさらに向こうの水辺で、ぽちゃん、と水音が響く。のんびり屋の河童らしい気配が、夜の静寂に柔らかく溶けていった。
陽菜は深呼吸し、夜空を見上げる。星は少なく、街の光にかき消されている。それでも、どこか希望のようなものが、胸の奥で小さく光っていた。
「…私、何かを守れるのかな」
その瞬間、淡い光が、路地の奥から静かに広がった。
街の夜は、ほんの少しだけ、色を変えたように見えた。




