元公爵令嬢の人形師が受けたある依頼
「はい、こちら注文のうさぎちゃんですよ」
「わぁ〜、ありがとう!」
「良かったわね、この子がどうしても貴女に人形を作ってほしい、と聞かない物ですから」
「いえいえ、指名して頂いて嬉しいですよ」
注文されていた人形を渡して私は家を出た。
「やっぱり、笑顔が一番良いよね。 憎しみなんてなんにも生まないわ」
この国で謎の『爆発事故』が起き当時の主な王族や貴族がいなくなって隣国の一部になって数年が経過。
その当事者である元公爵令嬢である私、アラビナは現在は人形師として生計を立てている。
街から離れた森の中に工房を作り完全注文制で人形を作っている。
勿論、爆発なんかしない安心安全な人形だ。
完全注文制にしたのはとにかく目立ちたく無かったから。
もし正体がバレたらどうなるかわからない。
なので連絡を取る事にしているのは街の公園の噴水前のベンチに座り依頼を受けている。
勿論、顔はフードで隠している。
こんな変わった連絡を取っていてもそこそこ依頼があって、しかも稼げるので世の中何が需要があるのかわからない。
依頼人の家を出た後、私はいつものベンチに座っていた。
「貴女が噂の人形師ね?」
声をかけてきたのは身なりの良い10代の少女、多分貴族なんだろう。
私も元貴族なのでなんとなくだがわかる。
「はい、ご依頼でしょうか?」
「そうよ、私そっくりの人形を作ってほしいの」
「……はい?」
「等身大の、なるべく1か月位はバレない様な物を作ってほしいの」
「え~と……、理由を聞いてもよろしいでしょうか? 内容によりけりで判断しますので」
「私ね、実家から逃げようと思っているの」
彼女、リミーナさんは公爵家のご令嬢で婚約者がいるらしいのだがその婚約者とどうしても結婚したくないらしい。
「相性が合わないのよ、向こうもそう思っているみたいで私達の中では婚約は解消したい、と答えが出ているの。 でも、当事者だけで決めれる程貴族の結婚なんて甘くは無いじゃない?」
「えぇ、なんとなくですが貴族の結婚は家同士の繋がりを強くするための手段、と聞いた事があります」
「その通りよ、両親は面子を大事にするから私の言い分なんて聞いてくれないのよ」
「つまり、話はした事がある、という事ですか?」
「えぇ、全く聞く耳持たないのよ、3カ月後には結婚式があるし時間が迫ってきているし……、だから実力行使に出るしかない!と思って……」
「因みにその後の事は考えているのですか?」
「他国に行って見聞を広めるつもりよ、私、本当は外交官になりたかったのよ」
なるほど、将来のビジョンは見えているのね、それだったら問題は無いわ。
「わかりました、その依頼受けさせていただきます。 お値段は金貨1枚で、出来上がり次第お届けにあがります」
「自宅に来られるのは困るわ、他の場所が良いんだけど」
「それでは結婚式が行われる教会なんてどうでしょう?」
「そこが良いわ」
金貨1枚を貰い私は工房へと戻った。
そして3か月後、結婚式当日、私は教会に来ていた。
「お待たせしました、こちらが依頼の魔導人形です」
「本当に私にそっくりね」
「リミーナにこんなに似ているなんて……、僕も作ってもらえれば良かったなぁ」
結婚式の控室にはリミーナさんともう1人多分婚約者の方がいた。
「彼は協力してくれるから」
「リミーナは貴族夫人なんて器じゃないからね、僕も両親の頭の硬さには正直嫌気が差していたんだ、これが上手くいったら僕も家を出るつもりなんだ」
子供達から見切られているなんて親達は思っていないんだろうな。
まぁ親の心子知らずなんて言葉もあるんだから親子であろうと意思の疎通は大事にしないといけない。
私は人形を置いて会場を後にした。
あの2人の決断が上手く行きますように、と祈った。
それから3か月後、二組の公爵家での騒動が話題になっていた。
その公爵家、跡取りである筈の子供達に逃げられてしまったらしい。
国に捜索依頼を出したのだけど、何故か騎士団の捜索を受けたらしい。
すると横領とか癒着とか犯罪行為が発覚して逮捕された。
「もしかして、これも原因の1つだったのかしら」
まぁ爆発しなかっただけで良しとしましょうか。
人形? 期間が終わったら私の元に戻るように魔術式を組んだから我が家に大事に保管されている。