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静かなる怒り  作者: 56号
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第八話 割烹〝はっかい〟

翌日。

園部美也子巡査部長と神谷諒一は、午前中に静岡県警本部で開かれる捜査会議に出席し、

昼食を挟んで午後から清水港での遺体発見現場の確認を行う予定となっていた。


会議は静岡市中心部、県庁舎に隣接した県警本部の第五会議室で行われ、

県警本部長以下、刑事部・鑑識・生活安全課・少年課、さらに県内複数署の幹部が顔を揃えた。


会議後の昼食は、清水港へと向かう道中にある草薙の和食処、

割烹〝はっかい〟に席が手配されていた。

上質ながら気取らず、地元の魚と野菜を使った料理が評判の店だった。


正午少し前。県警庁舎前で待っていた一台のパトカーの脇に、若い刑事が直立して立っていた。

制服ではなく、濃紺のスーツにネクタイを締めたその青年は、二人を見るなり深く頭を下げた。


「……神谷警視、園部巡査部長。

本日から数日間、静岡県警の案内役を拝命いたしました、刑事部捜査第一課の水原と申します!」


やや声が上ずるようにして名乗りを上げた水原の目は、真っ直ぐだった。


「移動はすべて、私が運転するパトカーでご案内いたします。

至らぬ点があるかと存じますが、よろしくお願いいたします!」


「そんなに緊張しなくていい」

神谷が、少しだけ口元をほぐして言う。


「……はいっ。恐縮です!」


「じゃあ、水原くん。ひとまず〝はっかい〟に案内してくれる?

午後からの現場確認、腹が減っては戦ができぬってことで」


横で美也子が軽く笑った。

水原は一瞬、表情を崩しかけたが、すぐに背筋を正し直して、


「了解しました、出発いたします!」と答えた。


パトカーが静かに県庁舎前を離れ、草薙へと向かう。

車内にはエンジン音と、事件に向き合う者たち特有の沈黙が流れていた。



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