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静かなる怒り  作者: 56号
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第七話 ピンキー

午後6時45分。

神谷諒一は、静岡駅構内アスティの一角にある喫茶店**「喫茶房ピンキー」**の入り口を静かにくぐった。


夜の帳が下りかけたガラス窓の外では、駅前のネオンが滲みはじめている。

店内は落ち着いた照明に包まれ、ほどよいジャズが流れていた。


すでに先に着いていた園部美也子が、ひと目で神谷を見つけ、軽く片手を上げた。


神谷は店員に「連れが」と一言だけ伝え、美也子の座るテーブル席へと向かった。

彼女の正面の椅子に腰を下ろすと、わずかに息を吐いて、背筋を伸ばす。


「……久しぶりですね、課長。こんな場所でお会いするなんて」


「有給中に悪いな。だが――事態がそれを許さなかった」


美也子は頷きながら、テーブルに置いたアイスコーヒーに目を落とす。


「例の……あの子の事件ですね」


神谷は、わずかに視線を左右に動かしてから、声を落とした。


「港で見つかった少女の身元は、香山千鶴。東京・豊島区在住。

12月14日、学校の帰り道で失踪。最寄りの交番が葛飾署の管内だったから……

お前の耳にも少しは入ってたかもしれないな」


「ええ、速報レベルで。でも臓器摘出って……そんな話、表には出てませんでしたよ」


「当然だ。情報はまだ伏せてある。

遺体発見現場からは、儀式的な意図を示唆する痕跡が出ている可能性もある。

だから、城山官房長直轄で特捜を組む動きが出てる。

オレはその準備のため、静岡に入った。お前にも――動いてもらう」


「……分かりました」


一拍の間を置いて、美也子はまっすぐ神谷を見つめた。


「でも、あたしはただの巡査部長ですよ。臓器売買か、カルト事件かも分からない。

課長は、あたしに何をやらせるつもりですか?」


神谷の目が、一瞬だけ揺れた。


「“あたし”じゃない。“お前”だからだよ」


静かに、だが確かな強さでそう言いながら、神谷は店員を呼び、ブレンドコーヒーを頼んだ。


冷めた夜が、二人の間に音もなく落ちてきていた。





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