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静かなる怒り  作者: 56号
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第六話 弔い

観覧車でも乗ろっか――

そんな軽い気持ちで二人はエスパルスドリームプラザへと歩き出した。


港の風が強くなってきた。観覧車の白い鉄骨が陽を反射してきらめいている。

ふと、美也子の足が止まった。


「……あれ、なに?」


歩道の脇に、人目を引くほどの花束の山があった。

菓子、ジュース、小さなぬいぐるみ、キャラクター文具――

どれもが、ある一人の子どもに向けられたものだった。


その場の空気が、急に冷たくなった気がした。


「……ここ、亡くなった子がいたんだね」


「うん……手向けにしては、あまりに多すぎる」


美波が静かに言った。


美也子は黙って目を閉じ、小さく手を合わせた。

その瞬間だった――ジャケットのポケットが震えた。


携帯を見ると、「神谷諒一」の名が表示されている。


「……園部です」


『園部か。——有給の申請には“清水旅行”って書いてあったな。いまどこにいる?』


いつになく、少し早口でまくし立てるような声だった。


「今は、葛飾署の美波と一緒に、清水港の近くにいます。課長こそ、どうしたんですか?」


『……ははーん、もしかして私が別の男と、って心配しちゃいましたか?』


冗談めかして返した美也子の声に、一瞬、沈黙があった。


『そんなことはない。それより大事な話だ』


神谷の声が、すっと低くなった。


『その“近く”で、東京で行方不明になっていた少女が遺体で発見された。

臓器の一部が摘出されていた可能性がある。……その事件について、

城山官房長から捜査の指示が出た。オレも今、静岡に向かってる』


美也子の表情が一変した。


『午後6時27分、静岡駅着のひかり号に乗った。

駅構内アスティの喫茶店ピンキーで待ち合わせしよう。——それじゃ』


通話が切れた。


目の前には、誰かが失った小さな命を悼む静寂。

ポケットの中では、警察官としての自分が呼び戻されようとしている。


「……美波、ごめん。ちょっと、行かなきゃいけないところができた」


「……やっぱり。なんとなくそんな気がしてた」


静かに頷いた美波の瞳の奥には、同じ“職”の者としての理解があった。



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