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静かなる怒り  作者: 56号
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第三話 暗礁

少女の拉致、殺害、そして死体遺棄事件は、

捜査開始からわずか数日で早くも暗礁に乗り上げた。


目撃者は皆無に近かった。

友人と別れたあの夕暮れ以降、彼女の足取りを明確に捉えた人物は一人としていなかった。

住宅地の中の、たった200メートル。

人目に触れず、音も立てず、10歳の少女が跡形もなく姿を消すには、あまりにも不自然すぎた。


さらなる混乱を招いたのは、遺体が身に着けていた衣服だった。

都内の量販店で大量に売られている、どこにでもあるような服。

白地にピンクの花柄のパーカー、紺のキュロット、ベージュのタイツ。


どれも防犯カメラの映像や目撃証言の「登校時の服装」とは異なるが、

犯人が意図的に“目立たない格好”に着せ替えたと考える以外に説明がつかなかった。


しかしそれが却って、犯人像の特定を著しく困難にした。

都内で誰もが手に入れられる服。

犯人が男性か女性か、年齢層すら読みきれない。


捜査本部では連日、香山千鶴の家庭、学校、近隣の不審者情報などを総ざらいしていたが、

どれもこれも、手応えのないまま霧の中に消えていく。


——少女はなぜ、着替えさせられたのか。

——なぜ、内臓を摘出されなければならなかったのか。

——そしてなぜ、清水港という土地に“捨てられた”のか。


神谷は資料の束を抱えたまま、

使い古された椅子にもたれかかり、蛍光灯の明かりをぼんやりと見つめていた。


「この事件……何かが根本的に、おかしいんだよ」


彼の言葉に、誰も答える者はいなかった。



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