表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かなる怒り  作者: 56号
14/14

終話 静かなる怒り

二人は、城山官房長の私邸がある葉山を後にし、夜の海岸線を北へと走っていた。

潮の香りを含んだ夜風が、わずかに窓の隙間から吹き込む。

遠くで波の音が聞こえた。


神谷諒一はハンドルを握ったまま、しばらく沈黙していた。

やがて、その口が静かに開いた。


「……美也子。俺たちは……いや、この国は――」

言葉を探すように、視線をフロントガラスの奥へ投げたまま、続けた。


「あんなに小さな命の一つすら、守れない国になってしまったんだな」


その声には、怒りも、悔しさも、どこか諦めにも似た静けさが混ざっていた。


「この国は、ずっと蝕まれてきた。

外からの侵略、内側からの腐蝕……それでも、なんとか踏みとどまってきた。

だが――今の制度は、もう疲弊しきってる。

このままじゃ、崩れる。静かに、確実に、壊れていく」


神谷の声が少し掠れた。


「もう一度、国を作り直さなきゃならない。そうでなきゃ、この国はもたない」


言い切ったあと、神谷は黙り込んだ。

窓の外には、波に反射する微かな光が流れていた。


助手席の園部美也子は、何も言わなかった。

ただ黙って、視線を膝に落としながら、

こぼれる涙をそっと指で拭った。


それは、悔しさか、哀しみか、それとも祈りだったのか――

彼女自身にも、分からなかった。



海沿いの道を走るパトカーのエンジン音が、夜の静寂に溶けていく。

国を憂い、命を悼み、未来を案じてなお、何一つ確かな手応えを得られないまま、

二人の胸には、言葉にならない重さだけが残った。


ただ、

神谷にも――美也子にも、無力感だけが残った。


それでも前に進むしかない。

この国に生きる限り。

彼らが守ろうとした、その小さな命の記憶を背負って――。



行方不明者の現実(2022年 警察庁統計)

全体行方不明者数:84,910人


9歳以下の子ども:1,061人


10代の子ども:14,959人


香山千鶴ちゃんの例は極端な話の展開のもと書き上げた100%のフィクションです。

多くの場合の子ども(未成年者)誘拐は、離婚後に親権を取れなかった親の連れ去りであるというデータもあります。


しかし、私たちの知らない間に、香山千鶴ちゃんのような被害者が生まれていないと誰に言い切れるでしょうか。


子どもは、この国の未来を担う大切な“宝”です。

全ての大人には、この宝を守りはぐくむ義務がある。

そう筆者は考えます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ