第十三話 国家の壁
「……以上が、香山千鶴ちゃん殺害事件に関する調書のあらましです」
神谷諒一は、まるで何かを噛みしめるような表情で言葉を締めくくった。
城山官房長の私邸応接室。報告を受けるための非公式な場だった。
神谷の語る声は落ち着いていたが、その端々には、言葉にしきれぬ怒りと無念が滲んでいた。
香山千鶴という名を、幾度も口にするたびに、瞳の奥に沈んだ光が鈍く揺れていた。
その隣に控えていた園部美也子巡査部長もまた、背筋を伸ばしたまま黙って報告に耳を傾けていた。
神谷の報告を途中で補うこともなかった。最後まで、言葉を飲み込むように、黙して立っていた。
報告が終わると、わずかな沈黙が部屋に満ちた。
その間に、城山はゆっくりと肘掛けから手を放し、目を伏せた。
「……報告は分かった」
短く、そして低い声だった。
「後は――外交問題になるな。国際世論との調整も、外務省と連携して進める」
ふたりの顔を一瞥し、口調を変えることなく続けた。
「何はともあれ、今回も苦労をかけた」
それだけを言い残すと、城山は黙り込んだ。
その目の奥にあるものが、労いの言葉と同じ色ではないことを、神谷も美也子も直感的に察していた。
何かが終わったわけではない。
まだ、始まりにすら達していないのかもしれない。
その場に流れる空気は、報告の締めくくりとは思えないほど、重く沈んでいた。




