第99章「運命の投票」
「いかがだったでしょうか!? この4組から、ついにプロデビューするバンドが生まれますよ!!」
──武道館の照明が一度落ち、観客は期待と緊張のざわめきに包まれた。
別室のモニタールーム。
そこでは高木と、かつて高木が所属していた会社の社長が、画面越しに決勝を見つめていた。
「……面白いオーディションでしたね」
高木が口を開く。
「ふん。我々の勝ちは見えている」
社長は冷たく言い放った。
「社長、覚えてますか? 自分の面接で言っていたこと」
「そんなもの覚えていない」
「聞きましたよ。あなたの同僚だった人から」
「なに?」
「元々、社長と親友で今の会社を作り上げた……。その親友は──」
「うるさい! なにも言うな!」
社長の声が鋭く響く。
「……本当は気づいていたんです。社長が急に“アーティストファースト”から“売上至上主義”に変わったのは……もう二度と、社員の命を失いたくなかったからだと」
社長は黙り込む。モニターの光が、硬い表情を照らしていた。
「自分が新しく選んだ上司は、音のこと以外興味のない人間でね。音楽のためなら時間もお金も命も──全てを捧げる覚悟のある人です」
「……」
「社長と親友は、最後まで夢を叶えられなかったみたいですが……自分は諦めません。田村さんとならできると信じています」
「綺麗事だけでやれる世界ではないんだ」
「わかってます。それも覚悟の上です」
「……ふん。それもこれも、このオーディションの結果次第だろう」
「ええ。楽しみですね」
──場面はステージ袖。
「田村さ〜ん! やったよ〜!」
櫻井が泣きながら田村に駆け寄る。
「最高のセッションでした!」有村が胸を張る。
「ベスト、ちゃんと出したぜ」矢吹も力強く言った。
「なかなか危なっかしいとこもあったけどね〜、まぁ上手くいったでしょ」宮下が肩をすくめる。
「やれることは全部やった。あとは……結果だけね」片寄の瞳は真っ直ぐだった。
「あぁ! お前ら最高だったよ!!」田村の声は震えていた。
──その時、MCの声が会場に響く。
「さぁ! 皆さん! いよいよ運命の投票が始まりますよ!! スマホ、パソコンから、特設サイトにアクセスして投票できます! 投票時間は──15分!! 急いでください!! 皆さんの1票が運命を決めます!!」
観客が一斉にスマホを取り出し、SNSではすでにハッシュタグが飛び交い始める。
「いよいよね……」美月が呟いた。
「長いなぁ〜15分」橘が腕を組む。
「どう思う?」一条が横目で問う。
「わかってるだろ。こっちの戦略は完璧だ」竹村の声は冷静だった。
──会場も、舞台裏も、ネットの向こうも。
全ての空気が、投票の15分に集中していった。
「お願い!! プロになりたい!!」櫻井が両手を合わせる。
「絶対に勝ちますよ!!!」有村は力強く叫ぶ。
祈る2人を横目に、
「……あとは神頼みか?」矢吹がぼそりと呟く。
「さぁ〜どうなるかなぁ〜」宮下は苦笑を浮かべる。
「大丈夫。私たちは負けない」片寄は強く言い切った。
「勝ちたい……! 結衣に!! 今の私なら……!」美月が拳を握る。
「ねぇねぇ、飯行かない?」橘が飄々とした声を出す。
「なに言ってんだ……これから結果発表なのに……」北村が呆れる。
「……橘……もうちょい緊張感持とうぜ……」田辺がため息をついた。
──そして、時が来る。
「それでは! 投票は終わりです!!」MCの声が響く。
「待ちに待った決勝戦! 結果はこちら!!」
巨大スクリーンに数字がランダムに動き、ドラムロールが鳴り響く。
会場は緊張感に包まれ、誰もが息を呑んだ。
「優勝は……………………」
──運命の一瞬が訪れようとしていた。




