第98章「音の共鳴」
──巨大スクリーンが再び光を放つ。
映し出されたのは〈レゾナンス〉の紹介VTRだった。
クラブでの熱狂的な《Chandelier》。
オーディションで披露した《夕凪、某、花惑い》。
そして、狭いスタジオで汗を流しながら練習に打ち込む姿。
短い映像の中に、彼らの“積み重ねた日々”が凝縮されていた。
「ねぇねぇ、田村さん」橘が肘で小突く。
「レゾナンスが勝ったらどうすんの?」
「どうするって?」田村が少し眉を上げる。
「レゾナンスが勝てばプロ入りするじゃん。でもさ、田村さんはどうなるのかなぁ?」美月が興味深そうに問いかけた。
「あー……それなら、ちゃんと考えてるよ」
「へぇ、気になるな?」橘がにやりと笑う。
「まだ内緒だ」田村は口元に指を当ててみせる。
「なんか企んでるんでしょ?」美月がじと目を向ける。
「まぁね」田村は小さく笑い、視線をステージに戻した。
「……うちには高木がいるから」
その言葉に、二人は顔を見合わせた。
──場内が暗転する。
観客のざわめきが静まり、スポットライトがステージへと集まっていく。
「それでは! Dグループ代表──レゾナンスのステージです!」
次の瞬間、鳴り響いたのは力強い歌声だった。
「贅沢は味方 もっと欲しがります負けたって
勝ったってこの感度は揺るがないの
貧しさこそが敵──」
有村のベースが、八分のウォーキングを刻む。
矢吹のドラムが、スプラッシュ奏法でリズムを跳ねさせる。
宮下のギターが、カントリー調の難解なフレーズを軽やかに奏でる。
櫻井のピアノが、ベースに寄り添ったり、ギターが暴れる隙間を支えたりと自在に絡む。
そして片寄が、hiCに届くロングトーンを鋭く響かせた。
──東京事変。
どれもプレーヤー泣かせの難曲を、五人は呼吸するようにこなしていく。
「そうだ、櫻井。遠慮するな。その方がお前らしい」矢吹が声を飛ばす。
「おっと、俺を気遣ってくれるのかい矢吹くん? 大丈夫、うちには有村がいるだろ?」宮下が笑う。
「全て支えてみせます。だからもっと、自由に暴れてください!」有村が力強く応える。
「みんな最高のグルーヴを出してる! もっと結衣ちゃんを自由にしてあげる!」櫻井が叫ぶ。
「今までで一番いい音! 私の歌で全部伝える!」片寄の声がさらに熱を帯びる。
──心の中までも、レゾナンスは共鳴していた。
観客の中からざわめきが漏れる。
「やべぇ……レベル高っ」
「なにこれ? すごいことが起きてる……」
熱気は伝染し、観客自身のボルテージさえもレゾナンスの演奏と共鳴していった。
「ご覧、ほらね わざと逢えたんだ
季節を使い捨て 生きていこう──」
サビに突入した瞬間、会場の熱は爆発した。
美月は黙ったまま涙をこぼす。
橘は天を仰ぎ、笑いながら叫んだ。
「はは! やっぱ勝てねぇか……!」
「ご覧、険しい日本〈ここ〉で逢えたんだ
探し出してくれて有り難う──」
ラストサビ。
片寄が歌い上げる「探し出してくれて有り難う」という一節には、胸を打つ説得力が宿っていた。
会場中から、これまでにない歓声が湧き起こる。
「そう……これが、レゾナンスだ!」
田村の声は、震えるように響いた。
演奏が終わり、歓喜と拍手は鳴り止まない。
「ありがとうございましたー! とんでもないステージでしたねー!」MCが声を張り上げる。
「さて! 全てのパフォーマンスが終わりました! それでは今回のオーディションをダイジェストで振り返ります! その後いよいよ──視聴者投票のスタートです!」
スクリーンが光を放ち、運命の時が刻一刻と迫っていた。




