第94章「決勝の幕開け」
──場内が、暗く沈んだ。
武道館の天井近くまで埋め尽くす観客のざわめきが、波のようにうねっている。
次の瞬間、巨大スクリーンが光を放った。
映し出されるのは、各グループの予選からの映像。激しい演奏、笑顔、汗、そして歓声。
映像がカットアウトすると同時に、爆音のドラムループと共にライトが一斉に点滅し、ステージに白いスモークが立ちこめた。
「──さぁさぁさぁ! 本日いよいよ、この瞬間がやってきました!」
甲高くも通る声が場内に響く。
赤いメガネ、やや丸めた背中。猫背気味にマイクを握るその姿は、観客の視線を一瞬でさらった。
「皆さんが待ちに待った、音楽の頂上決戦! 本日はここ、日本武道館からお届けいたします!」
声の主は、言葉を転がすように続ける。
「長い戦いを勝ち抜いた四つのグループが、このステージで──たった一度きりの演奏で、夢をつかみに来ました!」
会場から割れんばかりの拍手と歓声。
MCは手を広げ、まるでその音を体で受け止めるようにうなずいた。
「さぁ、それでは……決勝、開幕です!」
「まずはAグループ代表──Noëls!」
スクリーンには、これまでの歩みを追ったドキュメント映像が流れ始める。
***
ステージ袖。
「みんな!やっとここまで来たね!」美月が振り返り、仲間たちに笑みを向ける。
その言葉に、Noëlsのメンバー全員が真剣に耳を傾けた。
「ここからはさ──最高に楽しんだ人が勝つ! 私たちはいつも通り、楽しいことをやり切ろう!」
その声は、舞台袖まで届く。
「……美月って、あんなに頼りがいのある人なんだ」片寄がぽつりとつぶやく。
「近くにいると、意外と分からないことってあるよね」櫻井が小さく笑った。
「うん……」
「みんな勝つことに集中してるから気づいてないかもだけど、友達を応援するのは当たり前だよ?」
「由奈……ありがとう。おかげで迷いがなくなった」
「おい田村、お前から始まったんだぞ」矢吹がぼそっと言う。
「え?」
「俺たちのこと」宮下が笑みを浮かべる。
「あぁ……いや、俺はたまたま」
「そうじゃなくて、ちゃんと勝ちます。だからそんな顔しないでください」有村が淡々と告げる。
「はは……悪い。柄にもなく緊張してるわ」
***
紹介VTRが終わる。
「それでは──運命を決める最初のステージを飾るのは……Noëlsです!」
MCの声と同時に、歓声が天井を揺らした。




