第79章「反響の先に」
その夜──SNSには、〈レゾナンス〉の名前があふれていた。
「さっきのライブ、まじで震えた……」
「この子、誰? 原キーで《Chandelier》歌ったの!?」
「#レゾナンス #Chandelier原キー #片寄結衣やばい」
クラブで撮影された動画が、YouTubeやTikTokで一気に拡散されていく。再生数は、投稿からわずか数時間で数万を突破していた。
高木翔は、深夜の事務所でモニターにかじりついていた。
「……すごい、コメント欄も海外から来てますよ……!」
その横で、田村奏真がコーヒーを片手にうなずく。
「バズるって、こういうことか……。でも、これが“入り口”だよな」
「ええ、ここから先はもっと忙しくなります。でも──やっと、走り出せる」
──その頃、片寄結衣は自宅のソファでスマホを見つめていた。
──“あなたの歌に救われました”
──“本当に泣きました。ありがとう”
──“どこで聴けるの? もっと聴きたい!”
(……嘘みたい)
F5を地声で出すと決めたのは、ほんの一瞬のことだった。けれどその瞬間が、誰かの心に届いていたことが、スマホ越しに確かに伝わってくる。
──歌って、こんなにダイレクトなんだ。
届けたかった想いが、ちゃんと届いたと知ったとき、結衣は小さく笑った。
***
翌朝。事務所に集まったメンバーの前で、高木が立ち上がる。
「皆さん、昨日はお疲れ様でした! すごい反響ですよ!」
「色んな人から連絡が来てさ!」と田村が続ける。「これからのこと、高木がまとめてくれたから!」
高木は一礼し、次々と話し始めた。
「まず、有村さん。レコーディングの話が来てます。受けてもらえますか?」
「……え? ほんとに?」
少し驚いた様子で、有村康太が言う。「やります!」
「矢吹さんには、Beyond Shimanoさんから、新作ドラムを試してほしいという依頼が来てます」
「ほぅ、見る目がある会社だな。俺に来たか」
「宮下さんには、クライアントのイベントでサポートギターのお願いが来てます。カントリー系のバンドなんですけど、いけます?」
「カントリー、いいね! やるやる!」
「櫻井さん。JAZZフェス2025──町おこしライブで、ぜひトリをお願いしたいと依頼が来てますよ」
「えっ、トリ? 初めてなんだけど……でも、やる!!」
次々と舞い込む個人オファーに、メンバーは盛り上がりを見せる。
だが──。
「そして、片寄なんだけど……」
田村が、少しトーンを落として言う。
「高木と話し合って、大量に来てる依頼は断ろうと思ってる」
「……は? なんで?」
不思議そうな顔をする櫻井に、結衣も問いかける。
「イベントのため?」
高木が頷いた。
「はい。その通りです。そして、皆さんに一番お伝えしたいことがあります」
彼は、笑みを浮かべながら一枚の紙を取り出す。
「来月。某大手レーベル主催──次世代アーティスト発掘プロジェクト。一次審査は映像と音源選考、二次でライブパフォーマンスです」
場の空気が一変する。
「……つまり、今が勝負ってことだな」
田村の言葉に、高木は力強くうなずいた。
「全国から、実力あるバンドたちが集まってきます。……皆さん、挑戦しますか?」
一瞬の静寂のあと──
「──もちろんだ!」
「やるしかないだろ!」
全員の声が重なった。
田村は満足げに頷き、メンバーを見渡す。
「よし、それじゃみんな、頼んだぞ。高木と片寄で、イベント対策は詰めていく。時間は限られてる」
「了解です。すぐエントリー手続き進めます」高木がキーボードを叩く指を止めずに言った。
「……OK、やろう」片寄がまっすぐに言い切る。「勝つために」
その声に、誰もが自然と背筋を伸ばす。
次の舞台へ──〈レゾナンス〉は、もう立ち止まらない。




