第68章「仲直りのキー」
演奏を終えた〈レゾナンス〉のメンバーたちは、その足で田村のアパートへ向かった。
靴を脱いで玄関を上がると、懐かしいような、気恥ずかしいような空気が流れる。
「……お邪魔します」
有村が少し照れくさそうに言った。
「はぁ……思い出すなぁ、この感じ」
「相変わらず狭いよな」
矢吹が天井を見上げながら呟く。
「ほっといてくれよ……」
田村がソファに腰を下ろし、ふぅとため息をつく。
「リーダー、部屋くらい掃除しなよ」
宮下が呆れたように言えば、
「田村さんが掃除するイメージないわぁ」
櫻井が笑う。
「するわけないじゃん。田村さんだもん」
片寄が肩をすくめて、部屋をぐるりと見回す。
「……お前らなぁ」
一同が笑い声をあげた、その端っこで──
「……あの、自分もいていいんですか?」
高木が小さな声で尋ねた。
「メンバーで、大事な話し合いじゃないんですか?」
「気にすんなって、ついでだついで」
矢吹が軽く手を振る。
「むしろ高木くんの意見も、ぜひ聞きたいな」
田村が笑顔を向けた。
「えっ、なんの意見ですか……?」
田村は一息ついてから、有村に向き直った。
「──じゃあ、改めて。有村」
「……はい」
「……あの時は、悪かったな」
まっすぐに言葉を届ける田村の声は、どこか照れくさそうだった。
「いえ……僕のほうこそ。一方的に言って、すみませんでした」
「よし。じゃあこれ──仲直りのプレゼントだ」
田村は、押し入れから細長いハードケースを取り出し、有村の前に置く。
「えっ……これって……」
有村が蓋を開けると、中から現れたのは──
「エレクトリックウッドベース。前からやりたいって言ってただろ? まぁ……高すぎて中古だけどな」
「……ありがとうございます。あの、僕たちからも、田村さんに──」
今度は有村が紙袋を手渡す。
中から現れたのは、ぴかぴかの新品のMacBookだった。
「うわぁ……これって……」
「みんなで出し合ったんです。田村さんへの、感謝の気持ちです」
「……ほとんど有村が出したんだけどな」
矢吹がぼそりと呟き、全員が笑った。
「喜んでくれたかい?」
宮下が言い、
「壊れてたんでしょ? ちゃんと使ってよね!」
片寄が指を差す。
「うぅ……やっと2人がイチャイチャできるようになったんだね……」
櫻井が涙目でふざける。
「イチャイチャはやめてくださいよ……」
「ははは! ……みんな、ありがとうな」
田村の笑顔が、ゆるく夜に灯った。
「……うーん、なんかすごく場違いな気がしてきた……」
高木がぽつりと呟く。
「ごめんごめん! ここからが本題なんだよ」
田村が立ち上がる。
「さっそく聞いてもらおうかな」
「えっ、出来たんですか?!」
有村が目を丸くする。
「当たり前だろ。だから来てもらったんだ」
田村はMacBookを開き、電源を入れる。
──だが、なかなかスムーズには動かない。
「大丈夫かよ……」
矢吹が苦笑する。
「頼む……これがお前の最後の仕事なんだ……」
しばらくして、ようやく画面が立ち上がる。
田村は静かに再生ボタンを押す。
「──よし、いくぞ」
静かなクリック音とともに、再生が始まった。
部屋に、音が流れる。
新しい音。
今の〈レゾナンス〉が鳴らす、まだ誰も知らない音楽。
それは、迷いながらも歩いてきた彼らが、
ぶつかり合い、許し合い、ようやく辿り着いた音だった。




