表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ensemble Session  作者: たぬきち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/100

第58章「届かないリーダー」

 都内のライブハウス〈Strobe Light〉。

 キャパシティは三十人ほど、小さな箱ながらも音響は悪くない。レゾナンスの面々は、楽器を抱えてステージ脇に立っていた。


 


 「……田村さん、ほんとに来ないんですかね」有村が不安そうに言う。


 「さあな」矢吹が肩をすくめる。「場所と時間だけ送ってくるなんてよ。」


 「うーん……らしくないなあ、あの人がステージすっぽかすなんて」宮下がギターケースを床に下ろしながら呟いた。


 「今日、どうする?」櫻井が言葉を探すように問いかける。


 片寄が少し考えてから言う。


 「時間がない。有名な曲で合わせるしかないね」


 「だなー。とりあえず裏で軽く合わせてくか」宮下が立ち上がる。


 


 ──控室。


 音出しの余裕もなく、レゾナンスは急ごしらえのセットリストをまとめた。

 選んだのは、あいみょんの《君はロックを聴かない》、そしてZONEの《secret base 〜君がくれたもの〜》。誰もが一度は耳にしたことのある曲だった。


 


 片寄が軽く息を吐く。


 「……間に合いそうね」


 「もうちょい詰めとくか?」矢吹がドラムスティックを回す。


 「いや、大丈夫でしょ。練習量的には足りてるよ」宮下がギターを確認しながら言った。


 「……櫻井は?」


 「うん、いけるよ。問題ない……」櫻井は頷いたあと、ふと横を見る。「……有村くん?」


 


 有村は虚ろな表情で床を見ていた。声をかけられ、ようやく顔を上げる。


 「え? あぁ……大丈夫ですよ。行きましょう」


 その言葉に違和感を覚えつつも、皆はステージへと向かった。


 


 ──本番。


 会場の入りはまばらだった。30人キャパに、観客は15人ほど。

 もともと予定されていたバンド目当ての客は、急なキャンセルと知って足を運ばなかったらしい。


 


 だが、始まれば音が全てだった。


 


 《君はロックを聴かない》が始まると、静かに聴いていた客の反応が変わる。


 「……え? このバンド、うまくね?」


 ひとりがスマホを取り出して録画を始め、それが他の観客にも波及していく。


 続いて披露された《secret base 〜君がくれたもの〜》では、澄んだ旋律を描き出し、会場は温かな拍手に包まれた。


 


 「……ありがとう!」片寄がマイクに向かって叫ぶ。「レゾナンスでした!」


 ステージに、拍手がしっかりと届いた。


 


 楽屋へ戻ろうとしたその時、ライブハウスの支配人が駆け寄ってきた。


 「君たち、すごいね! まさか、今日初めて合わせた曲とは思えない! ぜひまた出演してよ!」


 「ありがとうございます! ぜひお願いします!」有村が深く頭を下げた。


 


 ──場面は変わり、田村のアパート。


 


 「……はあ、思ったより早く終わったな」


 夜の街を抜けて帰ってきた田村は、カップ麺を片手にパソコンの前へ座った。


 「あいつら、うまくやってるかな……」


 画面を開き、音楽制作ソフトを立ち上げる。


 「まあ、あっちは任せて……急いで曲、作んなきゃ……」


 


 作業は思ったよりも進んでいた。


 「……よし。構成はオッケー。あとは細かいところを……」


 


 そのときだった。


 


 パソコンの画面が突然フリーズした。


 「……は?」


 クリックを連打するも、反応なし。数秒後、ソフトが強制終了する。


 「やべ……とうとう来たか……」


 パソコンのファンが唸りを上げる。田村のPCは、数年前の型で、負荷にはもう耐えられそうになかった。


 


 「……あぁ、もう……」


 椅子の背にもたれ、顔を覆う。

 


 「イライラする……もういいよ……」


 うつむいたまま、ぽつりとつぶやく。


 「……だいたい出来てるし……あとは、アイツらが……勝手にアレンジするだろ……」



 ──リーダーのいないまま鳴った音は、それでも届いていた。


 だが、そのビートは、まだ田村には届いていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ