表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ensemble Session  作者: たぬきち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/100

第51章「東京モーニング」


薄いカーテン越しに、東京の朝日が差し込んでくる。


 「……はぁ、やっと帰ってきたな」


 田村奏真は、自室の扉を開けた。半年ぶりの我が家は、思った以上にほこりっぽい。


 「とりあえず、掃除だな……」


 掃除機をかけ、積もった埃を払いながら、部屋の隅に積み上げられた段ボールを開けていく。

 中から、使わなくなったインターフェース、壊れたスピーカー、古い譜面、そして──一冊の分厚い本が出てきた。


 『音楽理論の基礎』


 「うわ……これ、途中で挫折したやつじゃん」


 ダイアトニックコード、セカンダリードミナント、サブドミナントマイナー……

 ページに書かれた専門用語を眺めながら、田村は昔の自分を思い出していた。


 ──当時は、ただ音を感覚で並べるだけだった。


 でも今なら、あの頃より少しだけ意味がわかる気がする。


 「俺も……成長したのかもな」


 


 一方その頃──


 矢吹慎二はバイクのエンジン音を響かせながら、都内を駆け抜けていた。

 向かう先は、宮下辰馬と有村康太のバイト先。

 ドアを開けると──そこには、店の真ん中で泣き崩れる店長の姿があった。


 「……なにやってんだ…」


 矢吹が眉をひそめて声をかけると、店長は顔を上げた。


 「あぁ……君は矢吹くん……だったよね? もう誰でもいい! 頼むから、うちに入ってくれ!」


 「は?」


 そのとき、奥から有村と宮下が現れた。


 「店長、久しぶりです……って、どうしたんですか?」


 「君たちが滋賀に行ってから、うちの評判はガタ落ちでな……みんなバイト辞めちまって、今はもう、俺ひとりなんだよ……」


 「そんな……」と有村は絶句したあと、きっぱりと言った。


 「わかりました! これから3人で盛り上げます。任せてください!」


 矢吹は肩をすくめながら、


 「じゃあ、ついでに櫻井も呼ぶか?」


 だが、宮下が首を振る。


 「いや、櫻井なら──片寄と一緒に、ジャズバーでバイト始めたみたいだぞ」


 


 さらに別の場所──


 櫻井由奈は、ジャズバー〈Arco〉のグランドピアノの前に座っていた。


 「結衣ちゃん、ここが私のバイト先!」


 「へぇ……いい雰囲気だね。落ち着く」


 バーの奥から、派手なメイクにスーツ姿の“ママ”が登場する。


 「由奈、おかえり。楽しかった?」


 「うん! めちゃくちゃ楽しかったよ!」


 ママは、心は女性、体は男性。

 どっしりとした安心感のある、懐の深い人だ。


 「片寄結衣です。お世話になります。よろしくお願いします」


 片寄が丁寧に頭を下げると、ママはニヤリと笑った。


 「可愛い子見つけたじゃない、由奈。うちはジャズバーだけど、JAZZわかる?」


 「有名な曲なら何度か歌ってます」


 「大丈夫!」と櫻井が自信たっぷりに言う。


 「これから私が教えるから!」


 「頼もしくなったじゃない、由奈。……結衣、よろしくね」


 二人は、ピアノとカウンターの間を行き来しながら働く。

 片寄は時折、櫻井の演奏に耳を傾けていた。


 


 夕方──


 田村は、掃除を終えた部屋の机に向かっていた。

 パソコンとノート。スマホには、午前中にかけたライブスタジオの連絡履歴。


 ──「カバーでもいいんだけど、最近はオリジナルで勝負してるバンドが多いんだよね。お客さんもそれを楽しみに来てるからさ」


 断られた。はっきりと。


 「……やっぱ作るしかないよな」


 田村はペンを取り、ノートに書き始める。


 —


 《レゾナンスの新曲》

 ・主役が“5人”でも“1人”でも成立する構造

 ・バンド全体で“歌を運ぶ”アレンジ

 ・シンプルだけど耳に残るコード進行



 ──音楽の三大要素:リズム、コード、メロディ。


 スマホで最近のヒット曲を調べる。

 構成、展開、リズム、コード。

 サビにどんな仕掛けがあるか、どこで聴く人を引き込むのか。


 「……まずは、研究といきますか」


 その声はどこか静かで、でも火のついたような熱を帯びていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ