第47章「最後のセットリスト」
ライブハウスの照明が落ち着いた空気をつくり出していた。
6人はステージ前のフロアに集まり、円になって座っていた。
「……で、ここからどうするかって話なんだけど」
田村が口を開くと、有村が真っ直ぐに顔を上げた。
「プロ、目指しますか?」
「いきなりは無理だろ」と田村が苦笑い。
「結成したばかりだしな。まずは場数増やすとこからだろ」と矢吹がドラムスティックを回す。
「うんうん! 早くライブやりたい!結衣ちゃんのボーカル入で!」と櫻井が前のめりに言う。
「となると、オリジナル曲から作らないとね」と宮下。
片寄は頷いた。
「そうね。いつまでもカバーだけってわけにもいかないし」
全員の視線が、自然と田村へ集まった。
「……え、俺?」
「作曲担当だろ?」と矢吹。
「いやいや、アレンジは得意なんだけど……曲作りってなると、ちょっとマニアック寄りっていうか……」
「おいおい、お前だけ今までサボってたろ」矢吹がにやりとする。
「いや、考え事はずっとしてたよ! ほんとに!」
「ほぉ〜? 言ってみろよ」
笑いが起きる中、田村は真顔で続けた。
「矢吹の言う通り、ライブの数はこなさなきゃだ。で、いったん東京で再スタートしよう」
「ゆっくりできたし、そろそろ動きたいとは思ってた」と片寄。
「……なんか感慨深いですね」と有村がぽつりと言った。「この数ヶ月、ずっとこの街で過ごしてきたから」
「寂しくなるなぁ」と宮下がしみじみ呟く。
「みんないい人だったよね」と櫻井も目を細める。
「じゃあさ──滋賀で最後にライブやろうよ!」
田村の声に全員が顔を上げた。
「それが筋だな」と矢吹。
「みんな呼ぼうよ!」と櫻井。「美月たち、絶対喜ぶ!」
そのとき、チャイムが鳴った。
扉の向こうに、小さな影が立っていた。
「……お兄ちゃん、東京帰るってほんと?」
瑛太だった。
「……ああ。最後にここでライブするから、見に来てくれよな」
瑛太は何も言わず、くるりと背を向けて帰っていった。
「……あいつさ、父ちゃん亡くしてるんだよ。寂しいんだろうな」
宮下が静かに呟く。
田村が真剣な顔で言った。
「……そうか。じゃあ、本気で向き合わないとな」
「ですね。ライブづくり、最高のものにしましょう」と有村。
「サプライズしようよ!」と櫻井が手を挙げた。「最初は私たちだけで演奏して……結衣ちゃんが登場して1曲!」
「いいね!」と田村。「曲はどうする?」
「“石の教会”ね」と片寄。「あの曲が演奏出来たのは、この街のおかげだから」
「そりゃそうだ」と矢吹。
「歌の方は?」と宮下が振ると、
「ジャズやる? クラシックでもいいけど?」と櫻井がニヤリ。
「調子に乗んな!」矢吹が突っ込む。「いいか、熱量上げなきゃなんねぇんだ。ロックだろ、難易度高ぇやつ」
「やれやれ……有村、何か言ってよ」と宮下。
「ロックなら……L’Arc〜en〜Cielやりたいです」と有村。
「……だめだこりゃ」と宮下がため息。
「どうする、リーダー?」と視線が田村に集まる。
「まぁ……ありっちゃありだけど……」
片寄がきっぱりと首を横に振る。
「ダメよ。今度のライブには、老若男女、音楽好きも、興味ない人も来る。
ちゃんと“お別れ”を伝えられる曲じゃなきゃダメ」
沈黙が落ちる。
「……瑛太に響かせたいな」と宮下が小さく呟く。
田村が、ふとポケットからスマホを取り出す。
「……俺の母さん、ドリカム好きでさ。
俺、小さい頃は“ドリカムで育った”んだよ」
再生された楽曲に、全員が耳を傾けた。
「……いい曲。泣いちゃう」と櫻井。
「……分かりやすさ、か。必要だな」と矢吹。
涙で、言葉が出ない有村。
「……瑛太に聴かせたいよ」と宮下。
「──うん。あの子に響くように歌うわ」
片寄が目を閉じたまま、静かに言った。
「……よし、じゃあ練習しよう!」
田村が立ち上がる。
「お前は作曲の練習しろよな!」と矢吹がすかさず。
「今言わなくても……」
そう言って、田村は笑った。




