第45章「勘違いの先へ」
レゾナンスの仲間たちがそれぞれの場所で音と向き合っている頃。
田村奏真は、誰もいないライブハウスのステージに寝転んでいた。
「……何のために、バンドやってるんだっけ?」
ひとりごとのように呟く。
ユイに会うため?
片寄に認められるため?
──違う、気がする。
「……あー、こういうの考えるの苦手なんだよなぁ」
答えの見えないモヤモヤに耐えきれず、田村はライブハウスを飛び出した。
夕暮れの琵琶湖。
風に押されて、波がざわめくように岸へと打ち寄せていた。
その砂浜で──片寄は、ひとり琵琶湖に向かって歌っていた。
中島美嘉「GLAMOROUS SKY」。
その歌声は、初めて田村が出会った歌とは正反対。
波に抗うような、鋭いエッジを持ったロックサウンド。
その声には、感情のままに突き刺すような痛烈な熱がこもっていた。
「……うわぁ、ロックも1級品だね」
思わず漏らした田村の声に、歌い終えた片寄結衣が振り返る。
「なんか用?」
「いやー……考え事しててさ。答えが出ないから、とりあえず偵察でもしようかと思って」
「趣味の悪い人ね」
「まぁ凡人なんてそんなもんよ。君のような天才にはわからんだろ?」
「天才? そんなの存在しないわ」
「おいおい、海外挑戦しに行くとか言ってた人が何言ってんの?」
「挑戦じゃなくて、オファーが来てたの」
「……え? マジで?」
「韓国からね。アイドルグループだったから断ったけど、海外は面白そうだから」
「まぁ、K-POPもレベル高いけど……片寄には合わないか?」
「できるわよ。NewJeansとかILLITとか、全然歌える。でも興味がないだけ」
「……それを言える人を天才って言うんじゃないの?」
「だから、“天才”なんてのは、ただのあだ名」
「片寄の思う“天才”って、何?」
「──勘違いよ」
「勘違い?」
「そう。才能があると勘違いし続けて、周りが認めたときに“天才”というあだ名がつくだけ」
田村は、しばらく言葉を失った。
「……うーん、深いなぁ……」
「あなたは?」
「んー、生まれ持った才能みたいなもんかと思ってたけど……それ聞くと、なんか価値観変わっちゃったなぁ」
結衣は、田村の表情を一瞥して、静かに微笑んだ。
「私はね、あなたたちが“自分に才能がある”って、堂々と勘違いしてたから──興味が湧いたの」
「なるほどね……」
沈黙。
波の音が二人の間を埋めるように、寄せては返す。
やがて、田村は小さく笑った。
「……邪魔してごめんな。あ、そうそう。片寄のおかげで、みんな努力してるよ。“自分たちは天才じゃない”って」
「……そう。それは残念ね。諦めたの?」
「いや、明日集まるって。みんな、また“勘違い”して、帰って来るよ。」
その言葉に、片寄の目がわずかに揺れた。
「これを言いに来たんだ。決着つけよう。みんな、準備できてる」
片寄は小さく頷いた。
「……わかったわ。明日ね」
帰り道。
田村は空を見上げる。
まだ答えは見つからない。
でも、今だけは、そのままでいい気がしていた。
「……わかんねーけど、進むしかないっしょ。こんな熱、今しかないし」
ポケットの中でスマホが震える。
画面にはメッセージ。
「予定通り、あの場所で。全員集合。」
田村は画面を見つめ、小さく笑った




