第32章「それぞれの足音」
翌日、夕方。
ライブハウスに5人が集まっていた。田村が開口一番、言った。
「──みんな少し話し合おうか、」
そう宣言した瞬間だった。
「……ごめん」
静かな声。
櫻井が俯いたまま、椅子から立ち上がる。
彼女はその場から飛び出していった。
「櫻井さん!?」
有村が立ち上がり、彼女のあとを追った。
ライブハウスの中には、田村、矢吹、宮下だけが残された。
「……やれやれだな」
矢吹がため息をつきながら、椅子にふんぞり返る。
「片寄……ムカつくけど、ひとつも否定できねぇな」
「恐ろしいほど的確だったよね。まぁ、うすうすは感じてたけど」
宮下もギターを抱えたまま、素直に言った。
田村はコーヒーを持ちながら、ゆっくりと口を開いた。
「……今までの俺たちは、自分の得意なスタイルを組み合わせて、磨いてきた。でもそれだけじゃ、片寄のいる“あっち側”──プロの世界には届かない、」
「自由な音を作るためには、1度型にはまる必要がある、俺達は天才じゃない誰もが認めるほどずば抜けるのは無理だ。」
そこに、有村が戻ってきた。肩を落とし、重たい足取りだった。
「……ダメでした。『ひとりにして』って……」
「そっか……」
田村が表情を曇らせる。
「……放っとけ」
矢吹があっさり言った。
宮下が付け加える。
「ちょうど今、俺たちも“個”のためにプレーの幅を広げなきゃって話してた。ピアノもきっと、それが必要なんだと思う」
田村は静かに、有村の肩に手を置く。
「大丈夫。櫻井も、わかってる。変わるために一度、離れただけだよ」
有村が黙って、うなずいた。
しばらくの沈黙。
矢吹が立ち上がる。
「──ま、しばらく別行動だな。全員がもう一段階、進化するまで」
田村は、静かにその言葉を受け止める。
「……うん。きっと大丈夫、俺達なら上手くいくよ。」
4人の視線が交わる。
その先にはまだ見ぬ音の幅がある。




