表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ensemble Session  作者: たぬきち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/100

第29章「振動の果て」

  ステージに再び照明が灯る。


 レゾナンスの4人が立ち、静かに音が始まる──


 櫻井の指が鍵盤を滑る。柔らかく、でも芯のあるジャズピアノ。その響きが、会場の空気を一変させる。


 そこに、矢吹のドラムが重く、確かなリズムを刻み込む。躍動しながらも静けさを纏ったグルーヴ。

 続いて宮下のギターが、細く澄んだ旋律で空間に光を与える。

 有村のベースはそのすべてを支えながら、柔らかく、太い輪郭を描いていく。


 ──音の“身体”が、そこにあった。


 


 ステージ袖で、田村はミキサー卓に向かっていた。


 フェーダーを調整しながら、ふと目を細める。


 「……すげえな、みんな。初めて会った時と比べもんにならないくらい、音が洗練されてる」


 客席の最後方──

 あのマンションの住人、元ライブハウスのオーナーだった男が目頭を押さえていた。


 「……こういう夜を、もう一度見られるなんてな……」


 音が一つに溶け合い、クライマックスを迎える。

 そして、最後の一音が空間に響き、すっと消えた。


 ──静寂。

 その直後、嵐のような拍手と歓声がフロアを包む。


 「……ありがとうございました!」


 4人が深く頭を下げる。スポットライトの下、笑顔と涙が入り混じる。


 


 舞台裏。

 田辺と北村が並んでステージを見つめていた。


 そのとき──


 ライブを終えた矢吹が、ドラムスティックを田辺に差し出す。


 「……これ、返す」


 田辺が無言で受け取る。


 「今日の俺、上手かっただろ?」


 少しの沈黙。やがて、田辺が静かに頷く。


 「……このスティックなら、プロになれるかもな」


 矢吹はふっと笑って背中を向けた。


 田辺はその背中を見つめながら、隣の北村にぽつりとつぶやく。


 「──やろう。また、もう一度」


 北村が、ゆっくりと目を細めて頷く。


 


 客席では、出演者たちに「ありがとう」と声をかける観客の波ができていた。


 その中で、田村は美月に声をかけた。


 「ありがとう。来てくれて……Noël、よかったよ、歌もプロのレベルだった。」


 「ううん、こっちこそ。こんなに気持ちよく歌えたの、久しぶりだった」


 少し間を置いて、美月が切り出す。


 「ねえ、田村さん……ユイ、探してるんですよね?」


 田村は目を見開く。


 「……どうして知ってるの?」


「一緒に、オーディションを受けに行ってたんです。……最終審査まで、私と、ユイと、もう一人。3人だけが残って──」


「そのオーディションって橘が受けていた…」 


 その先を言い淀みながら、美月は目を伏せた。


 

 「でも、ユイは辞退したんです。“このままプロになっても、成長できない”って。……」


 櫻井が息を呑んだ。


 「……なんで?」


 


 「オーディションの最終日、裏でスタッフが

 “顔が良ければ誰でもいい。売れやすい曲書いて、適当に歌わせりゃいい”って……私もそれを聞いて辞退しました…」


 


 沈黙。


 田村は、黙って目を閉じたあと、ゆっくりと呟いた。


 「……あの歌が必要なんだ…」


 美月がそっと、微笑んだ。


 「──あの子なら“いつもの場所”で歌ってますよ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ