第29章「振動の果て」
ステージに再び照明が灯る。
レゾナンスの4人が立ち、静かに音が始まる──
櫻井の指が鍵盤を滑る。柔らかく、でも芯のあるジャズピアノ。その響きが、会場の空気を一変させる。
そこに、矢吹のドラムが重く、確かなリズムを刻み込む。躍動しながらも静けさを纏ったグルーヴ。
続いて宮下のギターが、細く澄んだ旋律で空間に光を与える。
有村のベースはそのすべてを支えながら、柔らかく、太い輪郭を描いていく。
──音の“身体”が、そこにあった。
ステージ袖で、田村はミキサー卓に向かっていた。
フェーダーを調整しながら、ふと目を細める。
「……すげえな、みんな。初めて会った時と比べもんにならないくらい、音が洗練されてる」
客席の最後方──
あのマンションの住人、元ライブハウスのオーナーだった男が目頭を押さえていた。
「……こういう夜を、もう一度見られるなんてな……」
音が一つに溶け合い、クライマックスを迎える。
そして、最後の一音が空間に響き、すっと消えた。
──静寂。
その直後、嵐のような拍手と歓声がフロアを包む。
「……ありがとうございました!」
4人が深く頭を下げる。スポットライトの下、笑顔と涙が入り混じる。
舞台裏。
田辺と北村が並んでステージを見つめていた。
そのとき──
ライブを終えた矢吹が、ドラムスティックを田辺に差し出す。
「……これ、返す」
田辺が無言で受け取る。
「今日の俺、上手かっただろ?」
少しの沈黙。やがて、田辺が静かに頷く。
「……このスティックなら、プロになれるかもな」
矢吹はふっと笑って背中を向けた。
田辺はその背中を見つめながら、隣の北村にぽつりとつぶやく。
「──やろう。また、もう一度」
北村が、ゆっくりと目を細めて頷く。
客席では、出演者たちに「ありがとう」と声をかける観客の波ができていた。
その中で、田村は美月に声をかけた。
「ありがとう。来てくれて……Noël、よかったよ、歌もプロのレベルだった。」
「ううん、こっちこそ。こんなに気持ちよく歌えたの、久しぶりだった」
少し間を置いて、美月が切り出す。
「ねえ、田村さん……ユイ、探してるんですよね?」
田村は目を見開く。
「……どうして知ってるの?」
「一緒に、オーディションを受けに行ってたんです。……最終審査まで、私と、ユイと、もう一人。3人だけが残って──」
「そのオーディションって橘が受けていた…」
その先を言い淀みながら、美月は目を伏せた。
「でも、ユイは辞退したんです。“このままプロになっても、成長できない”って。……」
櫻井が息を呑んだ。
「……なんで?」
「オーディションの最終日、裏でスタッフが
“顔が良ければ誰でもいい。売れやすい曲書いて、適当に歌わせりゃいい”って……私もそれを聞いて辞退しました…」
沈黙。
田村は、黙って目を閉じたあと、ゆっくりと呟いた。
「……あの歌が必要なんだ…」
美月がそっと、微笑んだ。
「──あの子なら“いつもの場所”で歌ってますよ。」




