第28章「鳴り響くステージ」
夕暮れの空に、音の粒が弾けていた。
ここは滋賀県、近江八幡。かつて廃墟だったライブハウスは、レゾナンスの手で磨かれ、整備され、今や立派なステージに生まれ変わっていた。
フロアには客がぎゅうぎゅうに詰めかけ、壁にはポスターやチラシ。ピカピカの照明がステージを照らし、スピーカーからはオープニングの環境音が流れている。
「結構……時間かかりましたね」
ステージ袖で、有村がぽつりと呟いた。
「……でも、やっとここまで来たな」
田村がゆっくりと深呼吸し、マイクを握る。そしてステージ中央へと歩き出す。
「皆さん、ようこそお越しくださいました!」
大きな拍手が会場に鳴り響く。
「僕たちがこの街に来て、音を探して、出会った人たちが……今日、こうしてステージに立ちます。音楽が、それぞれの歩みをつないでくれました。どうか、楽しんでいってください!」
再び拍手。
そして、ライブの幕が上がる──
1組目は、アコースティックギターを手にした北村のソロステージ。
スッと立ち、目を閉じ、静かに弦を鳴らす。
「──晴れた空は何故か、こんなにも優しく……」
切なく、優しいメロディに観客が息を呑む。
ステージ袖で見ていた宮下が、小さく舌打ちする。
「……ちょっと、嫉妬するわ」
演奏が終わり、拍手が湧き起こったそのとき──客席の中から声がかかる。
「……北村?」
北村が目を丸くする。
立っていたのは、田辺の孫だった。数年前まで一緒にバンドを組んでいた相方。
「久しぶり。……今日のステージ、よかったよ」
「……お前、来てたのか」
「やっぱ、お前のギター……好きだわ」
ふたりは短く言葉を交わし、北村が微笑む。
「……もう一回、やってみないか?」
田辺の孫は少し黙り、そして目を伏せた。
「……考えさせてくれ」
そんなふたりを、有村は優しく見つめていた。
2組目、Noëlの出番。
美月がマイクを握り、元気よく登場する。
「こんにちはー! Noëlです!」
ギター、ベース、ボーカル。全員がキラキラした笑顔で、自分たちの音を響かせていく。キャッチーで少し切ない、でも希望に満ちたメロディ。観客が自然と手拍子を打ち、リズムに体を揺らす。
ステージ袖で櫻井が涙を浮かべていた。
「……よかった、ほんとに……ってか美月歌上手すぎ笑」
田村も驚く
「オーディションに来た橘とは、真逆のスキル…感情をそのままを歌で表現できるタイプか…素人じゃないな…」
演奏の終わり、美月が笑顔で言う。
「こうして、また歌えて嬉しい。ありがとう!」
会場中が温かい拍手に包まれた。
そして──最後の出番は、レゾナンス。
ステージの照明が落ち、空気が一変する。
マイクの前に立つ田村。静かに口を開いた。
「僕たちレゾナンスは、この日を、ずっと待っていました」
「この街に来て、たくさんの音と出会いました。そして──このライブを、どうしても開きたかった理由がもうひとつあります」
会場が静まる。
「ユイ、というボーカリストがいます。僕たちにとって、かけがえのない存在で……彼女に、この音を届けたかった」
その瞬間──客席で、美月が顔を上げる。
「……え?ユイ?」
囁くように言葉を落とす。
照明が点灯し、バンドが配置につく。
「それでは聴いてください──」
最初の一音が、会場を震わせるように響いた。
すべての音が、心を打ち抜くように鳴り始める。




