第19章「オーディションの夜 – 第一幕」
店内ステージには昔ながらの赤いカーテンがかかっていた。
胡散臭い柄シャツを着た店長が、マイクを握って開口一番。
「さぁ皆さま、お待ちかね! 本日のボーカルオーディション──始まりますよ~!」
観客席には、音大生や路上ミュージシャン、SNSで見つけた素人まで、年齢・風貌も千差万別の参加者たちが緊張した面持ちで集まっていた。
審査員席には、作曲家の田村奏真とベーシストの有村康太──そしていつもと違う装いの櫻井由奈が座っていた。
ジャズピアニストらしからぬ眼鏡と、きちんと仕上げたダークカラーのスーツ。
まるで“仕事ができる人”を装っていた。
有村は思わず笑い出す。
「由奈ちゃん、そんなカッコで来たの?」
櫻井は静かに答えた。
「静かに!、“選考”中ですよ」
田村はその様子を見守りながら、心の中でつぶやく。
(ああ、この子、形から入るタイプなんだ……)
審査員席は少し笑い混じりのざわめきが起きたが、店長がすぐにフォロー。
「はいはい、始めるよー! 1番手、どうぞ!」
1人目:高校生の男子
制服姿の彼がステージセンターに立ち、しばらくの間緊張で固まるように見えた。
選曲はMrs. Green Apple「ライラック」だ。
華やかなコード進行、転調による高揚感──いきなり技術的にも難易度が高い。
田村は目を細め、ペンを走らせる。
高音域のファルセットとミドルレンジとの切り替えがスムーズで、喉への負荷が安定している。
「上手いな……だけど、この子の声じゃない…これだとモノマネになってしまう」
2人目:社会人の女性
スーツ姿の彼女が静かに楽器アンプを横目に立つ。
選曲はいきものがかり「ブルーバード」。
田村のペンが再び走る。
トーンが柔らかく、声帯の使い方も自然、アップテンポな曲だけど、バラード風にアレンジして自分の声に合わせている
「だけどうちのバンドには合わない、幅広くアレンジ出来るバンドにバラードだけで勝負するのはもったいない。」
3人目:寝癖だらけの男
ステージに現れたのは、ボサボサ頭でパジャマ姿の男。マイク前で固まる。
有村がそっと尋ねる。
「……選曲、何にするんですか?」
男は肩を竦めて言った。
「うーん、なんでもいいです」
審査員席に小さなざわめきが起きた。
田村:眉をひそめながらペンを止め──
櫻井:眼鏡の奥で淡々と観察を続ける──
その訝しげな雰囲気の中、店内後方から矢吹が声をかける。
「“Vaundyの『風神』”はどうだ?」
矢吹からの挑戦状だった。




