第18章「音を繋ぐ夜」
夜の渋谷、ネオンが揺れる路地裏。
田村奏真と櫻井由奈は、照明の柔らかい〈楽屋口〉の扉を開けた。
ドアを開けると、そこには整然と並ぶ楽器と、ベース・ドラム・ギターの三人が待っていた。
「おお、揃ったな、お前があのキーボードを弾いたのか?」矢吹が声をかけ、
「こちらが、うちのギタリスト……宮下さんです」有村が紹介。
「で、ドラムはこの人、矢吹さん。今日はよろしく!」と続ける。
櫻井が小さく会釈して応えた。
「よし、じゃあ──とりあえずやるか」矢吹が飄々と話を切り出した。
4人は自然と音に向き合い、最初のセッションが始まった。
田村はそっと後ろで見守った。
セッションの曲は「Pretender」
イントロからリズムがうねり、コードが呼吸し、
宮下のギターが空間を切り裂く。
音が膨らんだ瞬間に、櫻井が涙をこらえながらピアノを奏で、
矢吹と有村がリズムの呼応を重ねていく──
音が交差し、呼応し、瞬間的なグルーヴが生まれるたび、心が震えた。
サウンドは完璧ではないが、確かな“うねり”があった。
──けれど、ボーカルの入りが難しそうだと、心の内で田村は少し危惧していた。
**“あの子なら歌えるかな…”**そんな予感も、同時に湧き上がる。
セッションが終わると、店内はしんと静まり返った。
櫻井は肩を震わせながら、大声で泣きじゃくった。
「……すごかった……ほんとに、今のは……」
宮下もニヤリと笑い、「文句なしだな」と言い、
矢吹もタバコを吹かしながら、「最高だ」と呟いた。
田村と有村は顔を見合わせ、嬉しそうに言葉を交わす。
「良かった。すごく良かった」
「サウンドが詰められれば、ボーカルが入ってもきっと……」
「実は俺、聴かせたい人がいるんです」
有村がスマホを取り出し、ユイのカバー動画を再生した。
透き通る歌声は、鮮烈だった。
矢吹、宮下、櫻井の三人は驚きの声を上げ、唖然としたように見つめる。
──しかし、問題があった。
「この人と連絡が取れないんです……」と田村が苦笑。
そのとき、店長が姿を見せた。
「だったらさ、ここでオーディションでもやりません?
うちは“バンドでカラオケ”店として注目されてるし、
もしかしたらそのユイが来てくれるかも……」
内心では、店の収益も視野に入っている雰囲気だ。
「最悪、ユイじゃなくても、いいボーカル見つかるかもしれませんね」と有村が補足。
「そう、今回のセッションを動画にあげて音楽関係者にも声かけて……」と田村が続けた。
その瞬間、深夜の〈楽屋口〉に新たな未来への予感が静かに満ちた──




