表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ensemble Session  作者: たぬきち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/100

第10章「別々の第一歩」

 冬の気配が近づく下北沢。

 〈ELM〉の片隅で、田村奏真はMacBookを開いたまま黙り込んでいた。

 あの声が、頭から離れない。


 ──ネットに上がっていた、自作のオリジナル曲。

 それを“歌ってみた”という形でカバーしていた、無名の女性ボーカル。

 タグにあった名前は「ユイ」。


 “音程”ではなく、“空気の厚み”で歌を構成するその声は、確かにプロの領域だった。


 「……誰なんだ、彼女は」


 田村はすぐに、音楽業界の知人にメッセージを送ってみた。


 学生時代の音大仲間、アレンジャーの先輩、ライブハウスのブッキングマネージャー。

 連絡先が残っている限り、数十人に聞き回った。


 ──だが、誰一人として「ユイ」を知らなかった。


 活動名義が違うのか?

 そもそもまだ本格的な活動をしていないのか?


 「名前も顔も知られてないのに……なんで、あんなに完成してるんだよ」


 田村は画面を睨みながら、無意識に手元のコーヒーを一口すする。

 そのまなざしは、どこか焦りと興奮の入り混じったものだった。


そんなときだった。


 横に座っていた有村康太が、おずおずと口を開いた。


 「……あの、言いづらいんですけど」


 「ん?」


 田村が顔を向けると、有村はスマホを手にしていた。


 「活動、本格化させるってなったら……資金、必要ですよね。

 機材費も、スタジオ代も、録音やリハの交通費だってかかる。

 ……俺、今バイトもほとんど入れてなくて」


 田村は何も言わず、うなずいた。


 「で、これ──」


 有村はスマホの画面を田村に向けた。


 《バンドでカラオケができる店 ベーシスト募集!》


 「……バンド形式でお客さんのカラオケ伴奏する仕事、らしいです。

 ギャラも出るし、演奏の練習にもなる。

 ……正直ちょっと怪しいけど、今、できることはやらなきゃって思って」


 田村は画面をじっと見つめたあと、ふっと息をついた。


 「……有村」


 「はい」


 「その気持ちが、めっちゃありがたい」


 田村の言葉に、有村は少しだけ目を丸くする。


 「俺は、“声”を探す。

 有村は“土台”を支える。やり方は違っても、向かってる先は一緒だろ?」


田村は笑みを浮かべ、パソコンをパタンと閉じる。


 「よし、それぞれ行こうか。必要なのは“ピースを埋めること”だ。

 ……一歩ずつでいい。組み上げていこう、俺らのバンドを」


違う場所で、違う方法で──

 だがふたりは、確かに同じ音へと近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ