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第九十一話 奪宮リゾルート-06

 

 トントン、と地図が表示されたタブレット端末を指で叩いて、ミオはアジサイとハヤブサの顔を見た。

 

「ここぉ、シナガワ駅と海の間らへんにある、データセンターってとこだねぇ」

 

 ハヤブサ君が女の子だったらこんな感じなのかな。アジサイはぼんやりとその顔を見つめながら思う。

 整っていて、病的に青白い肌。艶のある黒髪と、眠たげな瞳。ハヤブサとの違いは、いつもニヤリとした笑みを貼り付けるその表情と、赤く裂けたような唇。

 

 雪女と口裂け女のハーフのような顔に向かって、隣に立っていた同じ肌色のハヤブサが問うた。

 

「ここに姫アリが?」

「いるんじゃないかぁ、って噂」

 

 噂話。

 

 それでも、皇国最強クラスの軍事組織である北鎮(ほくちん)師団のふたりが耳を貸す噂話であれば、その信憑性は高い。

 

「私は今夜ぁ、小部隊連れてちょろっと見てくるよぉ」

「えっ、シナガワまで?!」

 

 思わず声を上げた。

 この2日間で、皇国陸軍が進撃できたのは8キロに満たない。

 それも、敵が比較的少ない地帯、かつハヤブサの戦術で、キロ単位での面制圧に成功した奇跡のような快進撃があってのことだ。

 ここから先は敵の密集地帯で、シナガワのデータセンターまでは直線距離でも12キロはある。ちょろっと見てくる感覚で行ける場所ではない。

 

 それでもミオは、コンビニでホットスナックを買いに行くような気軽さで。

 

「はぁい」

 にこにこしながら頷いた。

 

「まあ、ミオなら一直線で行けるでしょう」

「ハヤブサはぁそういうの苦手だもんねぇ」

「俺は殲滅戦の方が向いていますから」

 

 ──やはり北方軍は普通じゃない。

 

 ハヤブサとミオしか例を知らないが、この二人だけでも規格外すぎる。

 軽く戦慄しながら、アジサイはふと思い出した。

 

「そういえば、ハヤブサ君はミオ准尉のこと、ほんとにミオって呼ぶんだね」

「……えぇ。ミオと呼べ、とうるさかったので」

「いいじゃぁん同期なんだしぃ」

 

 ハヤブサの声に、面倒臭いから……というニュアンスを感じて、意外とそういう声も出すんだな、と思った。

 無表情で無感情で無関心、だと思っていたが。ちゃんと、人間なんだな。

 

「アラセちゃんのこと、アラセって呼んだのは本当?」

 

 茶化すように言えば、ハヤブサは少し目を逸らして、「まあ……」と小さく答えた。

 

「へぇー!アラセちゃんとぉ、仲良くなれたんだねぇー」

「最初はあんなにバッチバチだったのにね!なんで名前で呼ぶことになったの?」

 

 前進基地(F O B)で初めて会ったとき、アラセはハヤブサのことをヒョロガリホワイトカラーと呼んでいた。それを思えば大幅な関係改善だ。

 部隊内の親交はよいこと!と、喜ばしく思いながらハヤブサに目をやったが、当の本人はすんっと冷え切った真顔。

 目の合ったものを氷漬けにする魔物のような瞳で、アジサイを見た。

 

「…………何故でしょう」

「そんな冷たい目で見られても私は知らないよ……」

 

 やっぱり、なにを考えているかわからない人だな、ハヤブサ君は。

 

「あのときは、月が綺麗だったのと……アラセ陸士長に、信頼、していただけているな、と……少しですが感じたので……その……なんとなく……」


 

 ──んん?


 

 伏し目がちにぼそぼそと喋るハヤブサを見て、即・前言撤回。

 

「ハヤブサ君……」

 

 女の子とふたりっきりの病室で、月が綺麗だとか思っちゃって、勢いでなんとなく相手の名前を呼んじゃうなんて──


 もしかしてそれは、もしかするんじゃないの??

 

 先程のアラセも、随分とミオに対して敵愾心を抱いていた。今思えば、アラセのそれは嫉妬に近い感情だったのかもしれない。

 と、なると。

 

「なぁるほぉどねぇ」

 

 思考の行き着いた先は同じようで、ミオもニヤニヤとした笑みを貼り付けていて。二人で顔を見合わせて、小さく声を上げて笑った。

 ハヤブサだけが、その笑みの理由もわからず、いつも通りの仏頂面をかましていた。

 

「何ですか」

「なぁんでもないよ、私そろそろ行くからねぇ」

 

 ニヤニヤが止まらない、という顔をしたまま、ミオは踵を返した。ひらりと黒髪が翻り、月夜に煌めいた。

 

吸血令嬢(カーミラ)……」

 その姿を見て、思わず口走る。

 

 英王国で出版された古書、吸血鬼ドラキュラに影響を与えたとされる、美少女にして女吸血鬼、カーミラ。その名を冠するカーミラ中隊の指揮官(キーパー)、ミオ。

 これは確かに美少女吸血鬼だわ、と胸の中で思うほど。美しくも恐ろしい、異様だった。

 

「カーミラは、夜間戦闘特化試験中隊と聞いています。ミオなら大丈夫でしょう」

 

 ハヤブサが、ミオの後ろ姿を見ながら言って、またタブレット片手に高機動防護車の方へ歩き去っていった。

 

「……」

 

 ひとり残されたアジサイは、北方軍二人の異常さ、ハヤブサの心境の変化、ミオの恐ろしさと、短時間で撃ち込まれた情報の銃弾を頭の中で整理して。

 

「──ハヤブサ君は二十歳(ハタチ)で、アラセちゃんは16歳(J K)……未成年……!」

 

 手放しで応援できない奴だこれ、と気付いてしまい、得体の知れない焦燥と悪寒で、小さく震えた。

 

みんな当然読んでると思うけど墜落JKおもしろいよね!

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