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第八十七話 奪宮リゾルート-02


「私のことも大事にしてよおおおお」

 隣でアジサイが足をバタつかせている。

 半ば無視しつつ、タブレットを凝視する。ちなみにこれも新品だ。前のはアリに車ごと襲われた際、画面が割れて血に浸かったので廃棄された。

 

 周囲に存在し、脅威と判定できるのは37体。ドローンの画像情報から、黒アリ24体、白アリ8体、棘アリ5体。

 

 自爆して棘を撒き散らす姿から名付けられた、棘アリ。

 全方位へ、炭素繊維に似た硬質の棘を発射する個体。特に非装甲(ソフトスキン)車両や歩兵には脅威だ。雑用係の黒アリ、頭部の振動板以外はさしたる害のない白アリより優先。

 

「棘アリから排除しましょう」

 一声、告げる。おいおいと懲りずに泣き真似に勤しんでいたアジサイが、勢いよく頭を上げた。

 

「了解、一撃でいこ。1.3キロ前方に偵察小隊」

「では1-3(ワンスリー)で」

1-3(ワンスリー)指揮官(キーパー)、指定目標、徹甲、射撃用意!」

『了』

 

 全てを語らずとも、アジサイには伝わった。前方に展開する偵察小隊に流れ弾を当てるわけにはいかない、一撃で仕留める必要がある。

 最も落ち着いて正確な射撃ができる、1-3(ワンスリー)に乗るリュウセイが選ばれた。

 

 タブレット上で一番近い目標を選択し、情報をリュウセイに転送。同時に、残る4体の棘アリの位置情報を()()()追いながら、少し離れた黒アリと白アリの進行方向を()()()逃さない。

 

「撃て!」

 

 アジサイが言った刹那、自分の後方から砲撃音。先頭を走る高機動防護車の真横を、砲弾が空気を切り裂いて飛び去った。

「この3体だけ射線に注意。ほかは問題ありません。なにかあれば、細かい指示は出します」

 言いながら、3本の指でタブレットをタップ。同時に3体を選択して、各部隊に送信。

 

『二分隊行くぞ!集中!』

 無線より速く。アラセの駆る獅子舞が高機動防護車をあっという間に追い越し、慌てたように後続のダイチとヒテンが追いかける。

 

「アラセちゃんあんまり突っ込みすぎないでね!」

『大丈夫だッ!』

 

 そう返しながらも、アラセの車体は速度を上げて明治通りを突っ走り、その正面に飛び出してきた棘アリを瞬殺。

 

 ──この方向なら。

 

2-1(ツーワン)次の信号右400メートル正面続いてビル外壁3階部分」

 

 地図上にいる敵の正確な位置を伝えた。返事もなく、アラセの獅子舞は急ブレーキをかけて交差点で停止。

 普通のドライバーなら数秒はかかる方向転換を一瞬で済ませて右折するなり、そのままロケットスタートで突っ込んでいき、もう一体の棘アリとビルの外壁にへばりつく白アリを消し炭に変えた。

 

『速ぁ?!』

 

 後ろから追いかけていたヒテンが感嘆の声を上げる。二分隊行くぞ!と威勢よく飛び出して行ってから、30秒と経っていない。

 

『負けてらんねえな、一分隊!1-3(ワンスリー)はその場で待機、1-2(ワンツー)は俺に続け!』

『了解!』

 

 第一分隊はタイヨウの指揮でまとまっている。もともと彼らはトーキョー生まれトーキョー育ちのトーキョー市民だ。ある程度の土地勘はあるだろう。

 そこまで細かい指示を出し続ける必要はないか。

 

「東に7キロ、機甲展開中!」

 

 アジサイが口を開いた。コマゴメ付近に、二三(ニーサン)式戦車からなる戦車大隊が展開しているようだ。高低差もあるので直射が飛んでくることはないと思うが──

 

 全ての可能性を、排除したい。

 

「流れ弾までは読めません。第一分隊はその先の5階建てマンションを左折、14メートル進んで停止。1-3(ワンスリー)はそこから8メートル後退、コンビニの陰へ」

 

 前言撤回、部隊を少し細かく動かす。指示通りに動いていく車列と、先に突っ走っていく第二分隊、その6輌を同時に目で追う。

 

 その視界の端、陸軍偵察ドローンが映し出すリアルタイム空撮映像の画面に、大きな土煙が上がった。

 

『おぉ!何だ?!』

 

 タイヨウ達に移動しろと指示したマンションの上層階が、前触れもなく爆発。外壁とバルコニーがひとまとめに、原型を留めたまま宙を舞う。

 数トンはあるであろうコンクリートとタイルの塊は、数秒前まで縦列に並んでいたタイヨウとミドリがいた場所に落下。ついでに、その隣に建っていた一軒家までも半壊させる。

 

 隣に座っていたアジサイが、信じられないものを見る目でタブレットを凝視しながら、無線機に向かって怒鳴った。

 

「第一分隊無事?!」

『俺と1-2(ワンツー)損害なし!』

1-3(ワンスリー)無事です』

 

 尻を浮かしていたアジサイが、どっかりベンチシートに沈み込んだ。

「よかったあ……方角的に、さっき言った戦車隊の流れ弾かも!直撃したら死んでたよ……」

 

 味方の攻撃で味方が死ぬ、なんて。

 もう絶対に認めない。

 

 そして、角度と距離的に、マンションとコンビニの陰にいれば絶対に当たらないと、理解していたから。

 ハヤブサはもう──第一分隊を見ていない。

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