第八十三話 都民様のソステヌート・ナイツ-04
「今日は何月何日ですか」
ハヤブサの口から放たれたその言葉に、アジサイとタイヨウは顔を見合わせる。
「あー……そうか。目を覚ましてこっちにベッド移ってからは記憶あるもんな?」
「タイヨウさんそれ、昨日の話だから」
「あれ朝だったもんな」
「ですです」
話が読めない。
脳がゆっくりと、確実に混乱している。
皇国軍の再進出は可能、ただし最低でも一週間はかかると予測していた。トゥースブラッシュ中隊の訓練も、練度を鑑みればまずは攻撃精度の向上を図るべきで、機動砲撃戦の訓練はまだ早い。
もしかすると──
「あの夜ね、ハヤブサ君。黒アリに攻撃されてトラックごとふっ飛んだあと、十日間も意識なかったんだよ。目が覚めたのは昨日の早朝で、だからハヤブサ君的には、まだ一日や二日しか経ってないように思えるかもしれないけど」
「────」
言葉が出なかった。
タイミング良く、いやタイミング悪く、寝過ぎた可能性は一瞬考えたが。
そんなに、経っていたか。
──あと一週間は安静に。休養が必要でしょう、貴方にも、部隊にも。
先ほどの医官の言葉がフラッシュバックした。これからの期間を合わせれば、半月は戦線復帰できないことになる。
「……俺、」
これでは、役に立てない。
自分が唯一できると言える作戦指揮、それができない。
戦線復帰できず、医療リソースを食い潰すだけ。
「…………ごめんなさい……」
ほとんど無意識に。ハヤブサは、消え入るような声で、そう言った。
⬛︎⬛︎⬛︎
「市長。凍咏ハヤブサ少尉の意識が、昨日戻ったそうです」
満月に照らされたシラカワ市庁舎。その一室で側近にそう声を掛けられ、アカツキはノートPCから顔を上げた。
「ハヤブサ少尉……?」
「トゥースブラッシュ中隊の、副指揮官の」
「あぁ」
名前だけ言われてもわからない。部隊名を言われて思い出した。
実娘、アジサイが率いる戦車中隊の副官だ。
アジサイが負傷したと連絡を受けた際、実は副官の方が重傷です、と付け加えるように報告された。
アジサイや中央軍幹部によれば、緻密な計算からなる砲撃と突撃で快進撃の一助となっていると噂で、あの北方軍アスカ上級大尉のお墨付き。
「……それでは、ついに」
「残念ながら、戦線復帰にはすこし時間が掛かるかと」
「そうですか……」
遂にトーキョー奪還か、と一瞬でも考えてしまい、肩と視線を落とす。
すこし時間が、というのは具体的にどのくらいなのか。一日や二日なのか、一週間なのか、一ヶ月なのか。
名前しか知らないハヤブサ少尉を主軸に考えている訳ではない。
だが、優秀だというのであれば使いたいし、トーキョー攻略に投入できるならぜひとも投入してほしい人材だ。
トーキョーを一時的に捨てる判断をして、二日足らずで全部隊を北上させた道を、丸一週間かけて南下し再攻略している。
あとどれくらい待てばいいのか。
シンジュクに聳えるトーキョー市庁舎のツインタワーに、いつ戻れるのか。
「……作戦は引き続き進めるよう、軍にお願いしてください。それと、ハヤブサ少尉にはお見舞いの手紙でも出してあげてください」
「承知しました」
側近は音もなくその場を離れる。
──アジサイでもハヤブサ少尉でも誰でもいい。はやくトーキョーを奪還してくれれば、誰でも。
アカツキは、窓の外で輝く満月についぞ気付くことなく、ノートPCにまた目を落とした。




