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第八十話 都民様のソステヌート・ナイツ-01

新章です!

前回までのあらすじ!

地球外生命体「ANT」に襲撃された「皇国」は、首都トーキョー特別市の防衛戦に失敗!戦車乗りの女子高生アラセ達は泣く泣く東北まで逃げたけど、そこからなんとかウツノミヤ市までは奪還!

でも戦闘中に、アラセと信頼関係のできつつあった天才指揮官のハヤブサ少尉が負傷して戦線離脱!みんなの未来はどっちだ!!

 


「え、なんでミドリ姉さんこんなに肌キレイなの?」

「戦争始まる前に脱毛したのよ」

「うわーいいなぁー」

 

 浴槽。それは戦時下において、最高の贅沢である。

 

 首都トーキョー特別市とその周辺都市を防衛範囲とする中央軍は、守るべきトーキョーを失った。故に彼らは、どこへ行っても厄介者。

 固定の宿営地を持たず、前線の近くに天幕を張る日々である。そこに風呂などない。

 

 いや──今まではなかった。

 

「オレもやってみたかったんだよなー。すね毛剃るのとかマジめんどい」

「30過ぎたら黒ずんじゃうのよね、毛穴とか。だからレーザーしてやったわ」

 

 両脚をだらりと伸ばしてなお余裕がある。災害時の避難所などで避難民向けに展開する、野外入浴セット。

 その一台が、奪還に成功したウツノミヤ駐屯地の片隅に設置されていた。

 お湯はぬるく、入れ替えは一日一度。

 その上、ぴったり15分で、脱衣から洗髪入浴ドライヤー着替えまでを済ませなければならない、という窮屈な制約付きだが。

 

「アラセちゃんも綺麗な肌よね、さすが10代」

「やめて腕毛剃ってないから!」

 

 ぺたぺたとミドリに触られて、アラセはくすぐったそうに身をよじった。水飛沫がちゃぷんと音を立て、青いビニールシートに跳ねる。

 

「うっそ……剃ってなくて、このすべすべ……?」

 アラセの身体をまさぐりながら、ミドリはなにやらぶつぶつ呟いている。

 これが女子高生……私だって昔は……みたいな小声が聞こえてきて、アラセはミドリの手から腕を引き抜いた。

 

「うぉぉい!姉さんセクハラっ!」

 

 少し大きめの声で言ってやったつもりだが、それを気に留める者はいない。先程から周りでは、他の女性兵士(W A C)の話し声や笑い声が響いている。

 

「ごめんごめん」

 ミドリは笑いながら手を離した。

「でも、本当に綺麗よ。羨ましい」

「そうかな……」

 

 そこまで言われると否定するのはよくない気がして、かといって何と返せばいいかもわからず。アラセは口ごもりながら、小さな水音を立てて自分の腕や肩に指を沿わせた。

 

「……ボロボロだけどな」

 

「……私もよ」

 

 ミドリに散々触られまくった腕。少し日焼けした首筋。水面に沈む脚。四肢のほぼすべてに、青あざと打撲、擦過傷(すりきず)が無数に刻まれていた。

 

 それはミドリも同様で。高G負荷下で、何度も何度も急機動を行い、獅子舞の狭い車内に身体中をぶつけまくった。その戦いの痕。


 さっき気づいたが、尻に大きな青あざができていた。誰かに見せる部位ではないとはいえ、鏡で見たときは恥ずかしかった。

 

「あと5分です、入れ替え準備!」

 迷彩服姿の軍人が洗い場に入ってきて、大声で告げた。ようやく身体がほぐれてきた頃だったが、仕方ない。

 

 お湯から上がり、ミドリと並んで更衣室へ向かう。数十人が一斉にひしめき合うが、全員が軍人なので動きが速い。

 

 アラセ達と同じように、腕も脚も青あざにまみれた者。

 負傷したであろう部位に、防水テープを貼っていた者。

 入念に身体を拭いてから、関節にコルセットを巻く者。

 

「……みんな獅子舞のヤツか?」

 

 バスタオルで髪をごしごししながら、アラセは見渡す。ずっとミドリと会話していたので、ほとんど周りを見ていなかったが、この時間帯の入浴者は総じて背が低い。

 そして、みな満身創痍。

「かもしれないわね」

 既にTシャツまで着終わったミドリも、横目で周りを見ていた。

 

 やがて、髪を濡らした負傷者の集団は列をなして更衣室を出て行き始め、まずい置いていかれると、アラセは急いで迷彩ズボンに足を通す。

 

「行くわよアラセちゃん」

「ちょちょちょ待って」

「腰のベルト捻れてる、下着(インナー)はみ出てる、あとちょっと爪長い。腕立て用意!」

「やらすな急いでんのに!!」

 

 常任軍籍(スタメン)のミドリの服装チェックは厳しい。指摘を受けたブラキャミの裾をズボンにねじ込みながら、タオルを首にかけて、ミドリを追って天幕を出た。

 

 外は星空。涼しくもないが暑くもない程度の風が、湿った髪を揺らす。

「マジ昼と夜の感覚おかしくなるんだけど」

「そうねえ」

 

 ウツノミヤ市街での戦闘で指揮官がふたりとも負傷退場し、トゥースブラッシュ中隊は当然ながら、一時待機を命じられた。

 深夜まで戦闘が続いたというのもあり、なかなか寝付けず。寝落ちしたのは明け方、目を覚したのは夕方。

 月を見上げるアラセとミドリの目は、ぱっちり醒めている状態である。

 

「……」

 

 寝付けなかったのは、戦闘が長引いたのが原因、だけではない。

 

 敵味方の攻撃で半壊した建物の隙間から見える、病院。

 アラセの視線に気づいて、ミドリもまた目を向ける。

 

「……ハヤブサ少尉、早く戻ってくるといいわね」

 

 全身打撲、擦り傷切り傷、骨折一歩手前の筋肉と骨の損傷……ハヤブサは満身創痍で、各所の仮説救護所を転々とさせられ、最終的に電力を復旧させた駐屯地横の病院に収容された。

 アジサイも全身打撲だが、歩けるし重傷ではないと判断されたため、駐屯地内の医務室にいる。

 

「べつに……」

 

 もう少し、撃つのが速かったら。

 もう少し、正確に狙えたら。

 もう少し、敵の動きを読めたら。

 

 もう少し──戦うのが上手だったら。

 

 黒アリが軍用トラック(三トン半)を襲うのを、間一髪で防げたかもしれない。アジサイも、ハヤブサも、怪我をしなかったかもしれない。そんな後悔の方が大きくて。

 

 だから、

「心配してねえし」

 この言葉は本心である。

 

「……アラセちゃん。心配ね、とまでは言ってないのだけど?」

「……いやだから心配してねえしそもそもあんな奴」

「早く戻ってきて欲しい?」

「そっ…………」

 

 泣きぼくろのミドリの顔は、含みのあるニヤケ面だ。アラセの髪から水滴が垂れ、肩で弾ける。

 アラセはぷいっと、ミドリと病院から顔ごと目を背けた。

 

「別に!!」


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