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第七十八話 オラトリオの叛攻-31


『初弾は|装弾筒付翼安定徹甲弾《 A P F S D S 》次弾徹甲で掃討後、すみませんが迎ぇ――』

 

 軍用トラックまであと一歩に迫る黒アリに向けて戦車砲を見舞った直後、ハヤブサからノイズ混じりの無線。

 アラセの視線の先で、ハヤブサが載っているはずの見慣れた軍用トラック(三トン半)が、電柱に天井から突っ込んだ。

 

「は――?」


 目を疑う。

 

 黒アリに向かって撃ったはずだ。

 黒アリ直撃コースの弾道だったはずだ。

 なんでトラックが宙返りしてやがる。

 

 もしや――

 

 脳の芯が凍った。

 最悪だ。

 照準がずれた?砲弾の軌跡が違った?

 

 いや、間違いなく黒アリの胴体に叩き込んでやったはずだ。誤射なんかじゃない。

 

 駆け寄らんとアクセルを踏み込みかけた足を、理性で無理やり制御した。

 真後ろには白アリがいると、空気を読まないHMDが警告を発している。

 

「……ッ! 二分隊、今の聞こえたな?!」

 言いながら、車体を反転。タイヤがアスファルトに擦れる甲高い音を暗闇の街に響かせて、ハヤブサの乗っていた全損トラックに背を向ける。


『中隊長とハヤブサ少尉が!!』

『まずは敵だ!APFSDS!』

 ヒテンの狼狽に、ダイチが被せるように怒鳴った。アラセも手元のハンドルでAPFSDSを選択。解像度の粗い暗視画面に白アリが映った瞬間、アラセはトリガーを握った。

 

 矢のような砲弾が砲身から飛び出して、白アリの振動板に直撃。

 触れたものを一瞬で粉々にし、塵と化してしまうその振動板でも、APFSDS弾の高温融解物(メタルジェット)と爆圧までは無害化できない。

 大きくのけぞった格好の白アリの胴体に、ダイチの放ったもう一発のAPFSDSが命中。

 頭部の振動板以外は普通の黒アリと一緒だ。着弾と同時に、白アリの黒い躯体は呆気なくバラバラに霧散した。

 

「次ィ!」

 

 いつもより交戦距離が短い。真っ暗で曇り空で、敵の位置がよく見えない。

 

 アジサイとハヤブサからの指示もない。

 

 いつもはうるさいくらいに、あっちに移動してこっちからそれを撃てとか、細かく指示をしてくるのに。

 第一分隊も、独自の判断で敵に対し攻撃を加えているようだ。地図上の敵の数が減っていく。

 

 アパートの外壁をよじ登る白アリを吹き飛ばし、じりじり後退しようとしていた白アリには30ミリ砲を浴びせかけて。

 

「これで全部だよなぁっ?!」

『……多分そうだ!アラセは戻れ!!』

 

 依然、アジサイもハヤブサも応えない。代わりにタイヨウが答えてくれたので、アラセは車体をトラックに向けた。

 

『分隊長、急がないとっ!』

「わーっとる!!」

 

 言いながらアクセルを踏んで、白い煙を上げる指揮用トラックのすぐ近くまで移動。エンジンを止める間もなく、獅子舞から這い出た。

 

 トラックの脇には、拳銃を構えたままの兵士が一人、頭から血を流しながら座り込んでいた。カタカタと震えながら、アラセを見上げている。

 

「だっ……大丈夫、ですか?」

 いや、この状態で大丈夫ではないだろ、と言った直後、脳内で思う。走ってきたダイチが、彼の手からそっと拳銃を取り上げた。

 ダイチがそっと目配せしてきたので、アラセはその場をダイチに任せてトラック後部へ駆けた。


 ――思ったより酷い。

 

 アラセの腰ほどの大きさのあるタイヤは全てパンクしていて、緑色の塗装だったはずの車体は無数の引っ掻き傷だらけで、もとのシルバーっぽい色が見えた。

 地面にはオイルと、ガラスと、車内に積んでいたであろう備品が散乱。

 夏の夜の蒸し暑さを軽く凌駕するくらい、車体から正体不明の熱が放出されている。

 

 一言で言えば、全損。

 

「生きちゅうが?!」

 

 叫びながら、荷台に手をかけた。背の低いアラセには軽く飛びつくようにしないと手が届かないし、車体後部は獅子舞のヘッドライトの死角だ。陰になっていて暗い。

 もがくように足をバタつかせて、半長靴を車体側面の凹みに引っ掛け、全身の力を込めて乗り込んだ。

 

 その目線の先で、ハヤブサが倒れていた。

 

「おい……ハヤブサてめえ!おい!!」

 叫びながら荷台に着地。と同時に、ぐちょ、と水音。

 

 ウツノミヤの夜はまだ蒸し暑い。むわっと咽せるような、血の匂いが鼻腔に流れ込んだ。

 

 一瞬の気持ち悪さをこらえながら、ハヤブサのもとに駆け寄る。その顔はいつも通り青白い。

 いつもと違うのは、肌だか服だかわからないくらい真っ白な頬とワイシャツに、鮮血がこびりついていること。

 床には外と同じく、無線機だの割れたタブレットだの、様々なものが滅茶苦茶に散乱していた。

 

 ――まさか死んでねえだろうな

 

 まさか

 

 そんな

 

「おい!!!」

 

 思考停止しかけている脳味噌を置き去りに、アラセの手はほとんど無意識に、しかし思いっきりハヤブサの肩を叩いた。

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