第五十七話 オラトリオの叛攻-10
今回は戦闘パートだと言ったな。
あれは嘘だ……
敵を見つけたとこで一旦区切らしてくだせえ!次回こそ戦車戦です!
部隊が一時休憩中であっても、自分まで監視をやめて休んではいられない。
ドローンは敵を検知していないことを確認して、偵察衛星の画像を眺めていると、
「ハヤブサ少尉、塩飴食べます?」
不意に車外から声をかけられた。荷台の後ろを見れば、ミドリが背伸びしながら車内を覗いていた。
獅子舞ドライバーは背が低い。軍用トラックは背が高い。普通に立っては見えないので、ミドリは飴を持った手を頑張って高く伸ばしていた。
「ありがとうございます、いただきます」
ハヤブサはタブレット片手に荷台の後方に移動して、ミドリから飴を受け取った。隣ではダイチが、ペットボトルの水を頭からざばざば被りながら、こちらを見ていた。
「あ、少尉。心臓大丈夫ですか……?」
この暑さで心配してくれたのだろうか。暑くても寒くても心臓はどうにもならないが、心臓の神経を切ったと言えば大病からの大手術のイメージがあるのだろう。
「はい、大丈夫です」
できるだけ明るく言ったつもりだが、伝わっているかはわからない。
小柄な二人はほっとした表情で顔を見合わせた。
「あんま無理させたらヤバいのかなって、この前話してたんすよ」
と、ダイチ。
「あまり病気のことはわからないから、なにかあったら遠慮なく言ってくださいね」
と、ミドリ。
少なくとも――皆から嫌われたりはしていないな、と思い直す。
それが社交辞令程度のものであっても、上官と部下の関係性であっても。断裂した仲ではないのだから、信頼関係の構築は不可能な話ではない。
「ありがとうございます」
問題は自分が人付き合いに慣れていないことである。こればかりは……
にこりとも笑わずに飴を口の中に放り込んだのと同時に、タブレットが小さな音を立てた。すぐに覗き込む。
偵察ドローンには依然、敵影なし。
23分前に衛星軌道上から撮られ、今さっき送信されてきた偵察衛星赤外線センサ画像に、熱源体あり。
サイズと形状から、おそらく黒アリだろうとAIが識別した、警告音だった。
23分前――
進行方向、アリの平均速度、後方にいるであろう他のアリの存在を一瞬で計算。
「……休憩したばかりのところ、すみません」
ハヤブサが口を開いたので、冷水で手を洗っていたミドリとダイチが顔を上げた。
「敵を補足しました。おそらく北西に6キロ程度の距離、黒アリを主軸にした小部隊です」
「了解、全員搭乗させるわね!」
「中隊長呼んできます!」
弾かれたように、ミドリとダイチは走り出す。見送りながら、タブレットで偵察ドローンの増援を要請。複数機で空から見つけ出せれば、正確な位置や数が把握でき共有も可能だ。
「こちらトゥースブラッシュ副指揮官、敵の小部隊と思われる熱源を確認しました。偵察戦へ移行します」
中隊と司令部どちらにも聞こえる周波数で、無線に向かって告げる。外を見れば、アジサイが胸をばいんばいん揺らしながら走ってきたので、顔ごと目を逸らしてトラックの奥へ。
「ハヤブサ君っ!敵の正確な位置まではまだ掴めてないんだよねっ?!」
「はい。ドローンは要請しましたが、到着まで時間が掛かります。接近させますか?」
「だね、タイヨウさん達を前に!アラセちゃん達は後ろに散開!」
言いながら、アジサイは流れるようにトラックに乗り込み、ヘッドセットを装着。まだ敵影のないタブレットを手に取る。
「このへんに普通科の一個小隊がいるから支援させるね!射線が通れば、ここの機動戦闘車の105ミリが使えるかも!」
周囲に展開している自軍を指でタップして、アジサイは豪快にペットボトルの水を口に含んだ。ハヤブサも一口水を飲み、第一分隊と第二分隊に移動指示を出す。
眠るように地面に伏せていた獅子舞、狩りをする直前のネコ達が目を覚ます。静かに滑るように動き出し、微かな砂塵を巻き上げながら木々の中へ。
その姿を見送りながら、ハヤブサはまだ影すら見えぬ敵がいる方向へ、鋭い視線を向けた。




