第五十六話 オラトリオの叛攻-09
衛星とドローンのほかに、戦闘部隊による偵察行動は頻繁に行われていた。
海からFOBを奇襲された大本営は、敵の動向を早急に掴み、早期に叩くことに主眼を置くようになっているようだ。
シラカワ市に駐留することとなった部隊は持ち回りで、北西部の偵察を実施。小部隊とのちょっとした小競り合いも発生しているらしい。
トゥースブラッシュ中隊もまた、高速鉄道沿いの田畑が広がる地帯や、ダム湖周辺にまで進出しての敵情偵察に駆り出された。
『……すんげえ田舎だな』
無線越しにタイヨウの声。
見渡す限り一面の畑、すぐそこに山、すべてが緑、緑、緑……。
ほかにはなにもない。
獅子舞が一列でゆっくり走るのは、未舗装の農道だからだ。装輪車両である獅子舞は、装軌車両の主力戦車などと比べ、不整地をあまり得意としていない。
『タイヨウさん、トーキョーから出たことあります?』
『あるけどこんな山奥来たこと無ぇーよ』
ダイチの問いに、タイヨウは辟易した様子で答えた。そんなダイチはヨコハマ、あとはトーキョー出身者が多い。
「ハヤブサ君はこういう所来たことある?」
アジサイが窓の外を眺めながら訊いた。どうやらアジサイも、視界の左右を畑に挟まれた経験はないらしい。
「俺もないです」
眩しい太陽に照らされて、緑が眼球に突き刺さる。
茂る草木が手入れされたものなのか、逞しく育つ雑草と雑木なのか見分けがつかない。
ハヤブサは目を細めながらタブレットに目を落とし、偵察ドローンが映し出す上空からの映像に集中した。
自然の草木は綺麗だが、自分には有機ELディスプレイのほうが目に合っている。
周囲に敵はいない。が、画像認識で識別するタイプのドローンは当然、背の高い木の下に隠れたアリを検出できない。数十分遅れの偵察衛星の、熱赤外線センサ画像と見比べながらの判断。
『そこ、そのガードレールの陰、でけえヘビいるぞ』
アラセの声。ヒテンが慌てた声を出しながらブレーキを踏んだようで、少し隊列が乱れた。
「こらぁ、ヘビくらいでビビんないの!」
アジサイが半ば呆れつつ無線に向かって言い、車内に侵入してきた羽虫を鬱陶しそうに手で払いのける。
のどかな散歩道だ。直射日光を遮るものがなく体感温度は上がりっぱなしだが、風を遮るものもない。車内には、ぬるくも爽やかな風が吹きつけていた。
軍用トラックの車内には。
「獅子舞をそろそろ停めましょう、周囲20キロに敵影なし」
獅子舞に開口部はない。冷房もない。ただ、機器冷却用ファンからのおこぼれを享受するのみ。
「っと、そうだね!熱中症になる!」
ハヤブサの提案に、アジサイは腕時計をチラ見しながら応えた。偵察任務に出てから、時間を決めて休憩時間を設けている。
「各車、停止用意……停止!」
アジサイの号令で、車列がぴたりと停まった。少し間をおいて、獅子舞の後部ドアが開き、迷彩服を着た男女がゾンビのように這い出てくる。
「ハヤブサ君は引き続き警戒お願いね。みんなー!水飲んでー!体調悪い人いないー?!」
言いながら、アジサイはクーラーボックス片手にトラックを降りていった。
整備や衛生班がするようなドライバーのケアを、アジサイは率先して行なっている。中隊長自らドライバーに水を配り、団扇で仰いでやる。
そりゃ好かれ、信頼される訳だ。
ハヤブサはタブレットの画面とアジサイの動きを交互に見ながら、小さく思った。
トーキョーから離れると言った夜も、もちろん多少の反発はあったが、全員がアジサイに着いてきた。それは、アジサイが今まで培ってきた信頼の積み重ねによるものだ。
自分が「トーキョーから一時撤退します」なんて言ったところで、きっと誰も着いてきてくれなかっただろう。まして、トーキョー出身者ではない、北方軍の自分が。
「…………」
タブレットの画面を見つめながら、少なくとも今、自分が彼らから信頼を得るには、敵情を完璧に把握して情報を流してあげるしかない、と言い聞かせる。
ハヤブサが上空から警戒していれば大丈夫だと、皆に思ってもらうことから始めなければ。
お待たせしました、ぼちぼち戦闘パートです!ミリタリーSFジャンルに釣られてきたみなさん帰ってきて!
トーキョーを捨ててから数話、心理パート&説明ばっかりですんません…あでもほら前話で新キャラ出たから!人気出てくれミオちゃん!




