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第三十四話 死神姫とアッラ・マルチャ-17


 手元のタブレットは役に立たない。

 残っていた空軍のドローンが慌てて離陸準備を始めたようだが、あいにく空軍機は夜間の画像検知を得意としていない。

 陸軍の赤外線(サーマル)センサー搭載型か、海軍の暗視洋上監視ドローンでなければ、夜間の敵をドローンで見つけることは困難だ。

 

 そしてここは自軍の中枢、皇国陸軍前進基地(F O B)。敵情把握のためのドローンは今、そもそも上空にはほとんどいない。

 タイミングが、狙ったように悪い。

 

「D滑走路側、海側から軍隊アリが砲撃中!数は少ないけど同じ方向から黒アリも白アリも赤アリも(トゲ)アリも全部来てるって!雨なのにどっから来たんだよー!?」

 

 アジサイが雨音に負けじと声を張り、双眼鏡を片手に滑走路を駆ける。ハヤブサも一応双眼鏡を持ってきたが、おそらく使わないだろう。

 水飛沫をあげて次々と動き出す戦闘車両に轢き殺されないよう目を配りながら、なんとかトゥースブラッシュ中隊の指揮車として利用する軍用トラック(三トン半)に駆け込んだ。

 

 顔の雨粒を雑に拭いながら、ふたりは同時にタブレットへ目を落とした。味方を示す白色の凸マークが、一斉に同じ方向へ向かっていくのが表示されている。

 

 敵の姿が映っていない。

 

「駄目だ、情報が更新されてない!」

 焦り混じりの声。ハヤブサの目がすっと細くなる。

 

 敵の正確な位置や数がわからない以上、むやみに発砲ができない。いち早く敵襲に気付いた部隊は既にD滑走路に到着している頃だが、刻々と移動する無数の敵を全てマッピングする能力は誰も持っていない。

 

 ――思い出せ。

 

 北方軍幹部候補生学校で教わった通りに。あのシミュレータで習った通りに。

 たった2度しか戦闘に出ていない新米指揮官(キーパー)の自分が持てる武器は、これしかない。

 

「偵察衛星の合成開口レーダー(S A R)画像を共有します」

 

 言いながら、既にハヤブサの指はタブレットを叩いていた。雨で濡れていてタッチスクリーンの反応が悪い。

 ドローンの画像検知ができないなら、皇国上空に常に存在し続ける人工衛星を使えばいい。合成開口レーダーは夜間かつ雨天でもある程度の解像度が保証される。

 大本営かFOBに勘のいいオペレーターがいれば、同じ情報をすぐに全部隊へ共有してくれるはずだ。

 

「衛星……!でもそれ、」

 向かいに座ったアジサイの顔がぱっと明るくなり、すぐに曇った。

「だいぶタイムラグがあるんじゃない……?」

 

 衛星が撮る。地表へ送る。それだけでも時間がかかる。画像を出すだけならまだしも、どれが敵でどれが味方かAIで識別させ、人間が最終チェックしてから地図上にマッピングし、それを各部隊へデータ送信する仕組みだ。

 低空を飛ぶ偵察ドローンは1機あたりの対象範囲が狭く、画像の送信距離も短いため、ほぼリアルタイムといって差し支えないレベルでの戦況確認と共有が可能だが、衛星となっては話は別だ。

 最短でも分単位でラグがある。

 

「はい」

 短く肯定。だが、今はほかに方法はないし、やり方は()()()()()

 

「敵の位置のスポットだけを担当します。味方部隊との連携は、お任せしていいですか、中尉」

 言いながら後ろを振り返って、アジサイの白い軍制服がぺたりと貼り付き、肌と下着が透けているのに気付いてすぐ視線を戻す。

 そうだった、ここにも大量破壊兵器があったんだった――

 

「わかった!」

 ハヤブサの気苦労を知らず、アジサイは元気よく声を出した。

「トゥースブラッシュ中隊、作戦開始!全車D滑走路方面、単縦陣、速度30、火器管制ロックのまま!事故に注意して進め!!」

 静粛性に重きをおいた、もとは偵察車両。ヘッドライトの眩い光を燦々と照らしながら、6両の獅子舞はゆっくりと静かに動き出した。

 

 その名に恥じず、敵を狩り殺すために。

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