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第二十三話 死神姫とアッラ・マルチャ-06


「――は???」

 素っ頓狂な声が漏れた。既に?至急?市全域から?あと20???

 

 ハヤブサと一瞬、顔を見合わせた。

 当たり前の話だが、砲撃を行う際は必ず、この地点に砲弾が落ちてくるから気をつけろという射撃警報が出される。それは無線通信で、全部隊共有の地図上で、あらゆる手段で通告されるものだ。

 

 聞いてませんでしたが通用しないから。

 

「聞いてないよ?!?!」

 

 アジサイは絶叫しながら、一度持っていたタブレットを壁に叩きつけた。頭に瞬間的に血が昇り、意識が遠のきそうになる。指先が冷たくてじりじりと痛い。口で息を吸い込もうとして、何故か肺がそれを拒否した。

 

「退避させます」

 隣に座るハヤブサが冷静に告げて、不自然すぎるその落ち着きぶりにもカッとなりそうになり、ギリリと奥歯を噛んで感情を押し殺す。

 ブチ切れた時間は2秒にも満たなかっただろう。だが、砲弾の着弾時間までに残された2秒間を、浪費した。

 

「全員聞け!!!」

 アジサイが弾かれたように叫び、ハヤブサが矢継ぎ早に移動指示を下した。

「第一分隊は車両を放棄校舎内へ退避、第二分隊最大加速で北進次の交差点を左折し高速道路方面へ、第三分隊300メートル後退ドラッグストアへ」

『何ィ?!』

 アラセの不機嫌な声が飛んできた。いまの状況を説明してやりたいところだが、あまりにも時間がなさすぎる。

 

「指示に従って!ザルヴァートル中隊も至急退避を!()()()()()()()()()!」

 

 ミドリとリュウセイが、整備兵を伴って小学校の校舎へダッシュしていくのが見えた。一番後ろでタイヨウが何か叫びながら追いかけていく。

 

「中隊長、我々も退避を!」

 軍用トラック(三トン半)のドライバーが、上擦った声を掛けてきた。グラウンドに展開していた車両から、次々と兵士たちが降りて校舎へ向かっていく。

 

「第二分隊そのまま高速道路上に飛び降りてください三/二(スリーツー)遅れています三分隊は全員ドラッグストア店内に車ごと突入」

 

 ひとつの息継ぎもせず、ハヤブサが無線機に向かう。無茶苦茶な指示だ、戦車ごと遮蔽物にブチ込んで身を守らせようという魂胆か。

 一瞬迷った。ハヤブサとギリギリまで指示を出し続けるべきか、校舎へ滑り込んだ方がよいか。ドライバーに応えようとして、

 

 身体がガチっと固まる。

 

 あれ。

 

 脳髄が冷えた。

 

 違う、硬直している場合じゃない。砲弾がくる。


 ハヤブサ君はまだ喋っている。


 ドライバーがこちらを見ている。


 視界が揺らぐ。

 

 叫びすぎて怒りすぎて、脳が酸素を食い尽くしたのか。


 過度のストレスで思考が停止したのか。


 理由もわからず息が詰まる。


 時間が引き延ばされ、


 世界にひとり取り残されたような感覚を覚えた。

 

「中隊長!」

 ドライバーが叫んで、我に帰った。兎にも角にも、ここに居続けるべきではない。自分の乗る軍用トラック(三トン半)非装甲(ソフトスキン)だ。

 

 うん、と頷きながらトラックの荷台に置かれた椅子を蹴った瞬間、頭に鈍痛。

 絡まるように、ハヤブサがアジサイを押し倒した。アジサイの身体と共に、無線機やらタブレットやらが床に叩きつけられる。咄嗟に庇った左腕が身体の下敷きになり、左肩と左手が悲鳴を上げたところで、頭上のハヤブサが大きく息を吸った。

 

「来ます!」

 遠くで爆発音。連続するそれは空気を大きく揺らし、床に転がったボールペンがカラカラと跳ねた。

 案外遠くに、と思った刹那。

 

 鼓膜を破らんとするほどの轟音と衝撃波が、二人の乗るトラックを襲った。

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