表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/171

第一話 歯ブラシ共のトッカータ-01


 おれはだいじょうぶじゃき、しんぱいしないで。

 

 己の口から出た言葉があまりにも白々しくて、自分が嫌になる。

 災害時伝言ダイヤルという、もとは地震や豪雨といった自然災害時の音声伝言板。

 そろそろ"戦争時"伝言ダイヤルに改名すりゃいいのに、とどうでもいい事を思いながら吹き込んだ言葉。

 

 両親がそれを聞いてくれるかはわからない。まだ生きていれば、もしかしたら聞いてくれるかも。

 そんな、一縷の希望を託した後。アスファルトの繋ぎ目に車体を微かに揺らしながら、自らの駆る獅子舞(ししまい)はトーキョーを目指した。



 

 ⬛︎⬛︎⬛︎

 


 

凍咏(トーエイ)ハヤブサ少尉、北方軍幹部候補生学校卒……二十歳(ハタチ)、訓練期間2ヶ月?すごいっすねえ……」

 

 7月下旬の帝都・トーキョー特別市は、朝とはいえひどく蒸し暑かった。

 空調は切られ、扇風機だけが温風に近いぬるい風をかきまわす前進基地(F O B)の一室で、額の汗を拭いながら。

 事務官は、汗のテカリひとつない無地の画布(キャンバス)のような顔を見上げた。

 

 綺麗にプレスされた紫紺のズボンに、真っ白な半袖のワイシャツ。すらりと伸びる腕は軍人には見えないほどに細く、ワイシャツと同じくらいに白い。

 瞳をやんわりと隠す漆黒の髪から覗く整った顔もまた、日焼けをしていない雪のような肌。つんと尖った鼻が前髪をかき分けて主張し、それすらも不気味なほどに純白で。

 

「少尉、せっかくサッポロから来てもらって悪いんですけど」

 事務官はその白磁の肌に少し呆気に取られながら、言葉を続けた。

 

「貴官に指揮してもらう予定だった部隊──2日前にサガミ湖あたりの撤退戦で全滅しました」

 

 全滅しました。


 あまりに軽く放たれた言葉に、ハヤブサは一瞬、理解が追いつかなかった。

 

「……全滅、ですか」

「そう。誰も生き残らなかったみたいです。まあ、地雷原の設置には成功したんですが……まあ正直、指揮官(キーパー)は割と足りてるんですよね。死ぬのはだいたい前線ですから。次の配属先は一応アテあるんで、少尉は一旦、そこの椅子に掛けて待っててもらえます?」

 

 そう言って、事務官はまた書類に目を落とした。いま忙しいんで、と無言で語りながら。

「……はい」

 ハヤブサは小さく返事をして、近くの椅子に腰掛けた。

 

 ──シミュレーションでは、誰も死なせなかったのにな。

 

 最高を通り越して究極難易度、やれば絶対に負けるシナリオ。絶望を味わってください、とお出しされた猛攻のフルコースを丸5時間捌ききって、遠路はるばるトーキョーまで出てきたものの。

 

 蒸し暑いトーキョー(こ こ)は、想像以上に地獄に近い場所らしい。

 

 遠くから喧騒にまみれて、衛生部隊が押すストレッチャーの音が響いている。

「意識レベル下がってます、輸血準備できてますか?!」

「あと二人続けてくるから!道開けて!」

獅子舞(ししまい)そこに停めんな!奥ずらせ馬鹿!」

「この人あっちね、その人は心臓マッサージ(C P R)始めて何分?!」

 

 緊迫、焦燥、悲壮。そんな、ただならぬ雰囲気が漂っていた。誰かの名前を呼びながら衛生隊に付き添う兵士たちの姿を、無感情に眺めながら、ハヤブサは思う。

 

 これが──ここが、戦場か。

 

 瀕死の重傷者が担ぎ込まれる前進基地。

 指揮予定だった部隊は全滅、でも次のアテはある。

 まるでパズルのピースだ。人事とはそういうものなのだろうが、この人が死んだから生きてる人を補充します、を機械的にできる自信は、自分にはない。

 

 なにせシミュレーションでは、一人も死なせなかった。

 所詮はシミュレーション、机上演習。それでも、死亡による欠員を出した経験は、一度もない。

 それを実戦(ここ)で、活かせればいいけど。

 

「待ってアラセちゃんマジで!勝手に行かないの!」

「だってここ(あぢ)いんだよ!早く終わらせよーぜ!」

「無茶言わないの!西方の暑いとこ出身でしょ?!」

「蒸し暑さがレベチなんだよッ!オレぁ耐えられねえっ!!」

 

 ハヤブサが虚空を見つめていると、どこかから騒々しい声が聞こえてきた。

はじめまして池田です!バターナイフヴァリアント、よろしくお願いします!

カクヨム様でも同時投稿中です。


※※2025/6/28

加筆修正しました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ