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15章 雪が積もる

 3月の終わり。季節外れの雨を含んだ重い雪が降った。

 家の前を、脩と母親の美佐江と雪かきしていたら、通りがかった凪の父が、あっという間に重機で雪を持っていった。

 脩は凪の父親に頭を下げると、凪の父親は右手を軽く上げて答えた。


 夜勤を終えて凪が脩の家につくと、美佐江が凪を居間に案内した。

「眠いのに、ごめんね。」

 美佐江はそう言って凪に温めた牛乳を出した。

「これ飲むとぐっすり眠れるよ。」

 美佐江は凪に飲むように勧めると、

「脩も座って。」

 そう言って脩を凪の隣りに座らせた。

「脩、ここを出て暮らしてほしい。」

 美佐江の言葉に脩は驚いた。

「凪さんのお父さんも1人で暮らしてる。お母さんも1人で大丈夫だから。」

「だって、何かあったら…、」

「これから脩は凪さんとやっていって。いい加減、お母さんを子育てから解放してよ。」

 美佐江は凪を見つめていた。

「大丈夫。母親の出口なんてないから。少し違う空気を吸ったら、また気が変わるかもしれないし。」

 美佐江はそう言った。

「勝手だな。」

 脩が言うと、

「なんでも私のせいにしないで。」

 美佐江はそう言って笑った。


 シャワーを浴び、脩の部屋で本を読んでいると、

「眠くないのか?」

 脩が隣りにきた。

「眠くなった。」

 凪は本を閉じて、ベッドに入った。

「さっき、凪のお父さんがきたよ。」

「そうなの?」

「雪、みんな持っていってくれた。」

「大変だ大変だって言ってるけど、本当は除雪が好きなんだと思う。みんなが待ってるからね。昔はネクタイ締めてるお父さんが良かったって、ずっと思ってたけど、今は高い場所から下を見れるって、ちょっと羨ましいって思える。」

「そうだな。」

 ベッドの横にいた脩は、凪の頭を撫でた。凪は眠くなり目が赤くなった。

「明日、休みか?」

「うん。」

「一緒に家を探しに行こうか。」

「一緒に?」

「凪の生活は邪魔しないから、一緒にいてくれよ。」

 凪は少し考えて、

「ご飯は自分で作ってよ。」

 そう言った。

「わかってる。」

「洗濯も自分でして。」

「わかってる。」

「じゃあ、一緒にいる意味ある?」

 凪はベッドの横にいる脩の顔を見つめた。

「あるよ。寒い時は温めてあげるから。」

 脩はそう言って、凪の隣りに横になった。

「来年、川の氷が凍ったら見に行こうな。」

「1人で行ってよ。」

「約束だからな。」

 凪は眠くて目を閉じた。


 冷たい雪の中、強がって赤く色付いたままのナナカマドの実は、少しずつ黒ずんで、次の季節を迎える。

 本当はとっくに朽ちてしまいたいはずなのに、真っ白な雪がその体を包むと、赤く燃えるように強がって見せる。

 ナナカマドの名前の由来は、7回竈門に入ったら、やっと燃えるという理由らしい。8回目の竈門に火が入る時には、何もなくなってしまうのかな。

 8回目の火は、もうないんだね。誰も見たことのない火を永遠と呼ぶのかな。


「凪。」

「何?」

「なんか今日は温かいな。」 

「牛乳飲んだから。」

 凪は脩の横で背中を丸めた。


 終。

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