98弾 この事件あれこれ情報得てみよう
「じゃあ、後は警備隊に引き渡しましょう。」
ヘイルが気を失った二人を見ながら俺に告げる。
「ここに放り込んだままですか?。」
俺が問いかけると、
「…いや、外に出しておきましょう。しっかり手足を縛って、目隠し猿ぐつわで。」
ということで、みんなでコソ泥2人をしっかり縛り直した上で、目隠し猿ぐつわを確認して、外の柱にくくりつけておくという、念には念を入れた状態で拘束をして、近くの警備隊詰所へ俺たちが届け出ることとなった。ちなみにこのコソ泥2人は下着のみの状態のままにしている。気が付いても思うように動けないだろうし、下手には逃げれないだろう………。
近くの警備隊の詰所に届出をし、下宿先に警備隊員を連れてきて、事情を説明して俺たちが取り押さえた話をする。
尋問の件は一部を省いて伝えておく。拘束後、身体検査をして色々な凶器が出たこと、特に毒塗りの短刀が3本あったことを伝え、警備隊のドラキャがやってくる時には、あえて下着も剥いで、身体検査をしてもらい、侵入者の男の局部に太い針金が隠し持たれていたことも判明した。
「じゃあ、ニシキ殿、お疲れ様です。この者たちはじっくりと取り調べします。茶店の店員とコックにもよろしくお伝えください。治安維持へのご協力、誠にありがとうございました。」
警備隊員がそう言いながら、やってきた警備隊のドラキャに拘束したコソ泥2人を押し込み、コソ泥の所持品と共に、そのまま警備詰所本部へ連行して行った。
俺たちが近くの警備隊詰所に行ってる間、どうやらあの3姉妹は変装した状態で、コソ泥2人を何か脅かしていたようだった。あれだけ脅されれば、むしろ可哀想にすら思えてくるのだが。
「さて、警備隊との対応、お疲れ様でした。留守番役に留守中の侵入者への対応、誠にありがとうございます。」
風呂と3姉妹の夕食後、リビングダイニングで俺とメムが、変装状態を解いた3姉妹と相対している。ヘルバティアが俺たちにお礼を言うが、いつものメムちゃんへデレている様子は全くない。とても硬い口調だ。
「今夜は、一旦お休みいただけますか。明日、あなた方に説明したいことがあります。」
ミアンが俺たちにそう告げる。
「わかりました。あなた方の稼業に関係したことですか。」
「ええ、明日の………昼食と夕食を一緒に食べながら説明することでいかがでしょうか。」
ミアンの話に俺は大きくうなずき、
「昼前までに、組合本部と警備隊へ行ってみようかとは思います。」
そう言うと、
「捕らえたあの2人についての情報収集ですね。」
とミヤンが返してきた。
「ええ、それもありますが、組合本部に一報しておき、それと共に警備隊がこの事件でどう動くかも確認しておきたいのです。」
「なるほど、わかりました。ニシキさんの言うことも納得できます。では明日の昼からで。お休みなさいませ。」
ヘルバティアがそう言って、話を終わらせる。まあ夜も遅いしね。
部屋に戻り、寝る準備をしているところに
「ハードな捕物だったわね。」
メムが呟く。
「いやあ、メム様の活躍なくしてこの結果は出ませんよ。」
「そう、でも明日の話は………。」
「多分彼女らの稼業に関係した話でしょう。」
「そうね、多分そうでしょうね。じゃおやすみなさい。」
「おやすみなさい、メム様。」
俺たちは眠りについた。
翌日、朝食をとり身支度を済ませ、3姉妹に出かけることを告げて、組合本部と警備詰所本部へ向かう。
最初に組合本部へ行き、ちょうどセイクさんがいたので、セイクさんへ昨夜にコソ泥が下宿先に侵入してきたので、取り押さえて警備隊に引き渡した話をする。
「そうですか。報告ありがとうございます。やはり好景気により、民の流入が増加しているせいかもしれませんね。」
「それは、警備隊による入門時のチェックとかが追いついていないということですか?。」
「ええ、もし気になるのでしたら、ニシキ様が現状を聞いてみるのもいいかもしれません。いま組合本部長と警備隊総隊長が、何度か民の流入増加について対策等を話し合っているのです。」
詳細は不明だそうだが、何かしら対策は検討中だそうだ。
セイクさんの話をヒントにして、次は警備詰所本部に向かう。
「お邪魔します。情報というか、流入者の数とか把握した資料みたいなものは、閲覧可能でしょうか?。」
警備詰所本部の受付にそう聞いてみる。この異世界での情報公開は意外に特殊だ。情報公開はするのだが、各役所、つまり組合本部や警備隊などの受付へ行き、書類を書いて、担当者と面談後に、公開、非公開、不存在のどれか3つのうち1つが告げられる。公開、非公開、不存在の選択に時間がかかる場合は、あらかじめ何日後以降に再度来訪してもらうように告げられて、再度来訪時に結果が伝えられる。
公開の場合は、すぐに公開されるがその場でのみの閲覧ができる。
非公開の場合は、理由を説明してくれるし、後でその理由を書いた書類を渡してくれる。
まあこの異世界にはコピー機や印刷機がないからなあ。
とはいえ、閲覧のために書類を書いて受付へ提出し、しばらく待つと、
「これはニシキ殿、精が出ますねえ。」
担当者と一緒にギグス・ローウェル隊員がやって来たのだった。
「どうしてまた?。」
「いや、先に閲覧についての話をどうぞ。」
ローウェル隊員はそう言って、担当者を促して話を進めさせる。
「先ほどの閲覧依頼の件ですが、最新の資料がまだ揃っていなくて。多分、流入する民の数の最新の情報をまとめた資料を閲覧したいのですね。」
「ええ、そうです。まだ集計中みたいな状態ですか。」
「その通りです。ある程度対策はしたのですが、白粉石の鉱山の操業が始まってから、一挙に流入者が増えて………。警備隊の隊員も募集はしているのですが人員不足気味で。」
「まあ、それだけ分かれば十分ですよ。」
俺はそう言って、不存在と書かれた書類を受け取る。
担当者が奥へ下がるのを見送り、ローウェル隊員と相対する。
「どうかしましたか、ローウェル殿。」
「実は、ニシキ殿に報告したいことが………、婚約しました。メモン・グリュック嬢と。」
「………おおっ、それはおめでとうございます。」
俺は立ち上がり、頭を下げて深々と一礼した後、小さく拍手する。
「いやいや、ニシキ殿の骨折りのおかげです。見つけてくださらなかったら、どうなっていたか。こちらこそ、ありがとうございます。式典にはぜひ出て下さい。」
少し照れながら、お礼を返す。
「じゃあ、華燭の典はいつ頃行うのですか。準備も大変でしょうけど。」
「ええ、大変になりそうです。時期はまだこれから決めるので、その時はお知らせしますよ。」
少し額に縦じわを刻みながら答えるローウェルさん。続けて、
「ところで、資料の閲覧にこられたのは、昨夜ニシキ殿が取り押さえたコソ泥の件がらみですか?。」
「はい、妙なコソ泥だったなあ、と思っていたのもあって。」
「ただ、あの2人、何かに怯えているのか、まだこちらの取り調べで口を開かないので。」
もしかして、あの3姉妹の脅しが効いているのか。そうは思ったが、それはおクビにも出さずに
「ふーん、そうですか。なんでまた。」
と俺はとぼけてみる。
「まあ、気長にやるだけですよ。ところで、婚約から華燭の典の間にニシキ殿に相談することがあるかもしれませんが、よろしいですか。」
おや、一体何の相談だろう。俺はそう思ったが、
「俺のできる限りで相談に乗りましょう。」
そう答えて、警備詰所本部を退出することにした。




